家族の灯り O Gebo e a Sombra
監督 マノエル・デ・オリベイラ
出演 クラウディア・カルディナーレ/ジャンヌ・モロー/マイケル・ロンズデール/リカルド・トレパ/レオノール・シルベイラ/ルイス・ミゲル・シントラ
ナンバー 300
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
“息子は必ず帰ってくる”。貧しさに耐えながら生きる母にとって、その願いは唯一の希望。不運を嘆き、夫のふがいなさを責め、嫁とは微妙な距離を取り、訪ねてくる隣人とも打ち解けない。映画は彼女をのために日常を嘘で固めた男の苦悩に迫る。テーブルと椅子だけの狭い空間で繰り広げられる単調でテンポの遅い会話劇には抑制の効いた感情が濃密に充満し、固定カメラが見つめる長回しのショットは彼らが無為に過ごしてきた年月の長さを代弁する。こんな毎日にうんざりしているいるが自力ではどうしようもない、そして束の間の喜びですら新たな悲劇の始まりに過ぎない。そこには誰かの犠牲になることでしか己を肯定できない“持たざる人々”の苦しみが凝縮されていた。
8年前に失踪した息子・ジョアンの帰りを待ちわびる母・ドロティアは、今日も夫・ジョボに愚痴をこぼしている。ジョアンの妻・ソフィアもまた義父母と暮らしながら夫の体を心配している。
黒板をかきむしるような耳触りなバイオリンの旋律が、小さな港で遠くを見つめるジョアンの心を象徴する。犯罪に手を染め、自由を奪われる運命。残されたジョボとソフィアはジョアンの不在の理由を知っている。だがドロティアは知らされぬままジョアンの身を案じるばかり。その過程で、“何も起きない人生が幸せ”と感じるジョボは負け犬のごとく描かれるが、そもそもジョアンの不法行為で昇進のチャンスを逃し、集金人に甘んじているのだろう。それでも恨み言を口にしないのは、自分の経験した辛さを家族に味あわせたくないから。複雑な思いを胸に抱きながら帳簿をつけるジョボの姿が切なく哀れだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
一方、突然家に戻ったジョアンは両親のみじめな生活に嫌悪感を覚える。それは搾取に気づかず、勇気を忘れ、貧乏に慣れてしまった弱者への怒り。しかし、ジョボには受け止める器量はなく、ただ、ドロティアとジョアンの未来を守ることで応えるのみ。そんな男の不器用な愛がまぶしかった。
オススメ度 ★★★