ファイアbyルブタン Feu par Christian Louboutin
監督 ブルノ・ユラン
出演 クリスチャン・ルブタン
ナンバー 2
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
トップレスのダンサーが放つ強烈なフェロモンと曲線美は、見る者を魅惑の世界にいざない、官能の虜にする。一方で、筋肉質の背中、割れた腹筋、しなやかに伸びた手足、小ぶりな乳房といった禁欲的なまでにシェイプアップされた肉体は、もはや性的な妄想の対象とはなりえず、ただ驚嘆をもって鑑賞するのみ。そしてほぼ裸の彼女たちの足元には非日常を強調するヒールの高い靴。映画はパリのナイトクラブ、クレージー・ホースで限定上演されたショーをスクリーンに再現する。ルブタンがデザインした靴の数々はダンサー以上に存在感を主張し、人々に物語を語って聞かせる。“これを身につけたあなたは幸福の魔法にかかる”と。
少年時代からナイトクラブに出入りし、華やかなステージに憧れていたルブタンは、彼女たちの雑用をこなすまでになる。ファッション界に身を転じてからもアイデアの源になったのは、妖艶なダンサーたちの舞だった。
ルブタンが演出するステージは統率のとれたダンスというよりも、靴と脚線と丸い尻に特化したフェティシズム。そこには女性の下半身に対する狂信的な愛があふれ、神秘を称える。バランスよく肉のついたふくらはぎと引き締まった足首、滑らかな太ももは張り出した臀部に続いている。ゆっくりとした動きは愛撫するようなアングルで迫り、激しく躍動するときは繊細な感情を見逃すまいと凝視する。変幻自在に操るカメラワークもまた、マジックのごとき引力を持っていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
バレエのトゥーシューズとハイヒールを合体させた靴のステージでは、靴は歩くためでも踊るためでもなく、見せるためだけの “アート”となる。奇抜な形で爪先立ちしかできない靴を履いた足たちは、その窮屈さから逃げるのではなく、むしろ自由を奪われた状態こそ至高の美であると訴えている。歩かないための靴、もしかして実用性を完全に取り払うことこそ、靴デザインの究極形なのだろうか。。。
オススメ度 ★★*