こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜

otello2014-01-10

オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜 ALL IS LOST

監督 J・C・チャンダー
出演 ロバート・レッドフォード
ナンバー 308
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

大海原にひとり投げ出されながらも、なんとか生き延びようと奮闘する男。通信機は壊れ、ヨットは沈み、救命用ゴムボートでひたすら漂う中で、それでもこの困難は乗り越えられると疑わない。しかし、水も食料も底を尽きかけた時、彼は人間が自然を克服するなどという考えは浅はかな思い込みでしかないと知る。物語はインド洋上で遭難したヨットマンの焦りと怒り、恐怖と苦痛を描く。あきらめることを否定し生存の道を模索し続ける姿は、リアリティを超えたサバイバル本能。未来を運任せにせず、自ら運命を切り開こうとする主人公の強い意志が淡々とカメラに収められる。

漂流コンテナに船体を傷つけられたヨットで目覚めた男は、応急処置を施すが、無線もパソコンも水に浸かり、SOSを発信できない。やがて大嵐に見舞われヨットは沈没、小さなゴムボートに乗り移る。

浸水し、転覆し、マストが折れても顔色一つ変えず、船内にある道具と機転で何とかしのぐ。さらに状況が悪化してもあわてず対処する。気力も体力もあるがもはや老人の域に達しているこの男、おそらく現役時代は厳しい競争をくぐり抜いてきた不屈の闘志を持つ職業人だったに違いない。無理難題こそステップアップのチャンスと信じ、必ず勝つと自己暗示をかけて交渉に臨むタイプ。だがその信念は人間社会では有効でも荒れ狂う大洋の脅威の前では無力に等しいと認識していく過程で、人生には自分の努力ではどうしようもない出来事もあると思い知らされる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

モノローグも回想もない、映画はただ男に寄り添い、彼を見守るのみ。劇的な演出を一切排した映像は見る者の共感を拒み、感情を抑制した語り口はこの期に及んでも弱みを見せない男のプライドの高さを暗喩しているよう。そして、あらゆる可能性が絶たれた時、初めて自身を顧みて少しだけ己の生き方に疑問を抱くのだ。水面から照らす光や差し出された手は、現実ではなく、彼の脳裏に浮かんだ最期の幻覚ではないだろうか。。。

オススメ度 ★★★*

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