こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大統領の執事の涙

otello2014-01-28

大統領の執事の涙 THE BUTLER

監督 リー・ダニエルズ
出演 フォレスト・ウィテカー/オプラ・ウィンフリー/マライア・キャリー/ジョン・キューザック/ジェーン・フォンダ/キューバ・グッディング・Jr./テレンス・ハワード/バネッサ・レッドグレーブ/アラン・リックマン/ロビン・ウィリアムズ
ナンバー 19
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

見ざる聞かざるに徹しつつも、相手が要求を言葉にする前に察して提供する。白人の良き下僕として生きる男はそうやって自分と家族の生活を向上させてきた。奴隷制の名残が強く残る20世紀初頭の米国南部、解放されても隷属を強いられる黒人はいまだ白人農園主に殺生与奪権を握られ貧困にあえいでいる。長年にわたる勤勉の結果、極貧状態を脱しまずまずの暮らしを手に入れた主人公は白人に感謝するが、教育を受けた息子は法の下の平等を望む。映画は、20世紀米国の黒人公民権運動を大統領執事の目を通して振り返る。権利は与えられるのを待っているのではなく、奪い取らなければならない。

貧しい黒人小作農の息子・セシルは白人家庭で給仕の仕事を教え込まれる。その後、ホテルに雇われるが、才能を見出されてホワイトハウスに推薦される。折しも公立学校の人種混成をめざす連邦政府と南部諸州が対立している時代だった。

アイゼンハワーケネディニクソンと、大統領たちは黒人の人権を認め、黒人執事たちにもフレンドリーに接する。一方で、ホワイトハウス従業員の待遇は人種間に大きな開きがあるという矛盾。黒人執事やメイドたちは不満よりもここで働けることに満足し誇りを持っているが、時が下るにつれ、おとなしくしていれば家畜のような扱いはされないけれどやっぱり差別されている実態を疑問に感じ始める。政権中枢の秘密には耳をふさいでも報道で入ってくる現実からは目をそらせない。それでも従属を選ぶセシルに染みついた性根。妻子を守る以上に己が築き上げたものを失いたくない彼の小心が哀しくも人間的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

だが、長男・ルイスは公民権運動に身を捧げ、指導的地位にまで上り詰める。正義を貫き、セシルに勘当されても信念は曲げない。そして十数年にも及ぶ父子断絶の末、何が正しいのかセシルは知る。やがて21世紀になり、ルイスをはじめとする“戦った黒人たち”が敷いたレールの延長上に黒人大統領が生まれた。この作品は立ち上がる勇気がなかった大勢の凡人に送る壮大な免罪符なのだ。

オススメ度 ★★★*

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