こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ある過去の行方

otello2014-02-14

ある過去の行方 LE PASSE

監督 アスガー・ファルハディ
出演 ベレニス・ベジョ/タハール・ラヒム/アリ・モッサファ/ポリーヌ・ビュルレ
ナンバー 35
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

誰もが秘密を抱えている。そしてそれを打ち明けたら、危ういバランスの上でかろうじて保たれている日常が崩壊する。だからこそ胸の奥深くに抑え込むが、自分を守ろうとするあまり周りの人々を傷つけてしまう悪循環に陥っている。物語は離婚手続きのために帰ってきた夫が直面する、かつて家族だった男女がバラバラになっていく悲劇を描く。血のつながりがなくても信頼し合っている一方で、実の親子がぎくしゃくしている。そんな、愚かさと優しさ、ワガママと寛容の陰で見えなかった出来事が次々と明らかにされるうちに、おぼろげながらも真実が浮かび上がってくる。その過程はスリリングかつサスペンスにあふれ、息がつまりそうな緊張感と共に登場人物の心を覗く好奇心を刺激する。

イランからパリにもどったアーマドは、元妻のマリーが新恋人・サミール父子と同居している家に泊まる。だが、長女のリュシーはマリーの再婚に反対し、アーマドはリュシーの本心を聞き出そうとする。

サミールには自ら洗剤を飲んで植物状態になった妻・セリーヌがいるが、マリーはすでにサミールの子を身ごもっている。マリーとサミールの不貞が許せないリュシーは思い切った行動で2人の関係を壊そうとした。隠し事ばかりの家の中でアーマドは過去をひとつずつ掘り返し、セリーヌの自殺未遂の原因を探っていく。呵責に耐えかねて自ら告白する者、証拠を突きつけられてしぶしぶ認める者、ちょっとした悪意が取り返しのつかない事件に発展したのに、問い詰められるまで口を閉ざしている。闇の中の手探りのごとき展開のなかで、封印した感情を彼らが表出させていく姿は人間の本性を垣間見るようだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

サミールもまた独自に調査を行い、事実を確認すればするほど、己の至らなさに気づかされる。知らなかったほうがよかったのかもしれない、でも知らなければ新しい一歩は踏み出せない。結局、真相は意識不明のセリーヌだけが知っている。彼女の目から零れ落ちた一条の涙が、「愛」の苦悩を象徴していた。

オススメ度 ★★★★

↓公式サイト↓