こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

醒めながら見る夢

otello2014-04-19

醒めながら見る夢

監督 辻仁成
出演 堂珍嘉邦/高梨臨/石橋杏奈/村井良大/松岡充/ 高橋ひとみ
ナンバー 90
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夢なのか現なのか、夜明け前の河原で石を積む男は深い後悔と自責の念にとらわれている。だが、恋人が待つ狭い町屋に帰ると束の間の安堵と眠りが訪れる。そこは他者の介在を許さないふたりだけの世界。物語は愛を求めるあまりすべてを投げ打った舞台演出家と、彼に恨みを持つ娘の懊悩を通じ、死と直面した人間の悲しみを描く。石畳の小道、緑深い疎水、ゆったりと流れる鴨川、木造の平屋、入り組んだ路地に響く祭囃子etc。古いたたずまいを残す京都、普通の人々が生活する街並みが独特の風情を醸し出し、幻想的な趣に花を添えていた。

新作公演を控えた優児は稽古中に突然引退宣言、亜紀と暮らす部屋に戻り彼女に結婚を申し込む。亜紀の妹・陽菜は優児を訪ねるが相手にされず、母親の元に届いた手紙の差出人の緊縛師・五郎の下で見習いの文哉と出会う。

かつて劇団の看板女優だった亜紀、優児は彼女にどこか妻に対する以上の思いを抱いている。腫れ物に触るように接し、本当は迷っているのに彼女を傷つけないように大切にしているフリをする。さらに演出家としての成功に後ろめたさを覚えている。彼の態度は自分を苦しめることでバランスを取っているような危うさがいつも漂い、亜紀との関係が尋常ならざるものであると暗示する。暗くじめついた家具のない畳の間で、優雅な舞に身をくねらせながら芝居のセリフを吐く亜紀の幸せそうな笑顔が、いかにも怨念がこもっていて恐ろしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方、胸の奥に潜む本心を知りたい陽菜は“肉体を縛ると心の形が現れる”という五郎の元に通いつめるうちに文哉に好意を寄せられる。ところが、文哉はベッドに入っても手出しをせず、添い寝をするのみ。このあたりの微妙な感情のやり取りをカメラはあくまで冷めた視点で追う。そして明らかになる優児と亜紀・陽菜姉妹のおぞましい過去。目の前の現実を受け入れたくない、目覚めている今が夢であってほしい、そんな優児の弱さがリアルだった。

オススメ度 ★★*

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