こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

そこのみにて光輝く

otello2014-04-21

そこのみにて光輝く

監督 呉美保
出演 綾野剛/池脇千鶴/菅田将暉/高橋和也/火野正平/伊佐山ひろ子/田村泰二郎
ナンバー 93
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

過去から逃げようとしても忌まわしい記憶にがんじがらめにされている男。現在を変えようともがいても家族のしがらみを断ち切れない女。希望などとっくに失ったけれど死ぬ勇気はない、ふたりは必然のごとく出会い、お互いの傷をなめ合ううちに分かちがたい感情を抱いていく。それは社会の底辺で暮らす彼らにとって唯一の慰め、映画はわけありの男女の切ない愛を通じて人生の無常を説く。何一つ思い通りにならずやることなすこと逆回転を繰り返す、一方で情深きゆえにわが身に不幸を背負い込む。不器用な生き方しかできない登場人物がやっとつかみかけた未来すら簡単に零れ落ちてしまう、そんな格差の実態がリアルに再現される。

採石場の事故で休養中の達夫はパチンコ屋で拓児と知り合う。海辺のバラック小屋に住む拓児は姉の千夏と両親がいたが、千夏は家計を支えるために体を売っていた。別の夜、達夫はちょんの間で商売する千夏と再会する。

脳梗塞で寝たきりの父を抱える千夏の実家に漂う想像を絶する諦観。みな千夏の夜の仕事を知っている。薄暗い部屋で母親が父親の性欲を処理し、拓児は千夏の作ったチャーハンをフライパンから食べる。彼らは思わず眉をひそめたくなるほど品位に欠けている。だが、だからこそ今の自分には彼らような生活がふさわしいと感じた達夫は拓児とつるみ、千夏の商売をやめさせようとする。部下を死なせた達夫にとって、彼らと同等にまで堕ちるのが自らに課した罰。そして彼ら救えば自らも救われる。現実から逃避してきた達夫が千夏という血の通った女を前にして前向きになろうとする姿が、この息苦しい物語に光を当てる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一度世間の“普通”からドロップアウトすると、踏みにじられ蔑まれるしかないのか。うんざりするほどのゆったりとしたテンポは見る者に彼らの絶望を味あわせる。それでも夜は明ける、確かな人間関係の存在を予感させる朝日がまぶしかった。。。

オススメ度 ★★★

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