こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブルージャスミン

otello2014-05-13

ブルージャスミン BLUE JASMINE

監督 ウディ・アレン
出演 ケイト・ブランシェット/サリー・ホーキンス/アレック・ボールドウィン/ピーター・サースガード/ルイス・C・K/ボビー・カナベイル/アンドリュー・ダイス・クレイ
ナンバー 109
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

周囲の人間を見下すくせに手に職はない。ブランド品を身に着けているのにカネはない。裕福な生活から見放された女は虚栄心という見苦しいプライドを盾に現実から目を背け、苦境から逃れる術を模索する。もう若くはなく美貌も下降線、にもかかわらずセレブの妻だったことだけを根拠に“上から目線”を崩さない彼女が哀れを通り越して滑稽だ。物語は、夫が巨額詐欺事件で逮捕され全財産を失ったヒロインが、下層階級に甘んじている妹の元で葛藤する姿を描く。肉体労働はイヤ、事務職も退屈、他人がうらやむ華やかな仕事がしたい。決して自らを省みない高慢な勘違い女の破壊力は潔さすら覚える。正気と狂気の間を行き来する彼女の意識と感情を、ケイト・ブランシェットが視線の強弱で表現する。

夫は自殺、息子は家出、無一文になったジャスミンはサンフランシスコに住む妹・ジンジャーのアパートに転がり込む。低所得者層の日常に馴染めない彼女の脳裏には、NYでのゴージャスライフがよみがえる。

結婚で大学を中退したジャスミンには資格も経験もない。インテリアデザイナーなら上流暮らしで磨いたセンスと知識と社交性が生かされると思っても、無料講座を視聴するスキルがない。結局、PC教室に通うジャスミン。時に精神安定剤とウォッカの世話になりながらもなんとか自力で再起を図る。その過程でも、ジンジャーの恋人や元夫といった“労働者”たちとは一線を画し、歯科医にも気を許さない。そしてやっと出会った自分に釣り合う男の前で、ジャスミンは思わず大きな嘘をついてしまう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

デート中のジンジャーの息子たちの面倒を見るジャスミンは、彼らに得意の自慢話を披露する。人生の先輩として成功への心得を説いているつもりなのだろう、だが彼女の眼は獰猛な光を放ち始め、もはや甥っ子に対する伯母の態度ではなく、欲望がむき出しになっている。そんな彼女の転落をウディ・アレンはいつものようなコメディのテンポで描く。その、悲劇とのミスマッチが芳醇な味わいを醸し出していた。

オススメ度 ★★★

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