こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

春を背負って

otello2014-06-17

春を背負って

監督 木村大作
出演 松山ケンイチ/蒼井優/豊川悦司/檀ふみ/小林薫/新井浩文/吉田栄作/池松壮亮/仲村トオル/石橋蓮司
ナンバー 140
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

雪深い山道、眼前にそびえる連山の峰、切り立った岩場と崖、手が届きそうな青空、流れる雲とめまぐるしく変わる天気、短い夏に咲き誇る花と野草、そしてオレンジ色に染まった夕焼け。雄大な景色と澄み切った空気のなか、主人公は亡き父に思いを馳せる。数十キロの荷物を背負い麓から一歩ずつ登る、彼らが運ぶ食材や生活必需品には客に対するおもてなしの心以上に命を守ろうという使命感があふれ、働くことは生きることであると訴える。物語は山小屋を経営する青年が様々な経験と他人との触れ合いを通じ成長していく姿を描く。大自然の前では人の営みなどほんのちっぽけなものに過ぎない、それでも愛と信頼はかけがえのない人間関係を築くとこの作品は教えてくれる。

証券ディーラーの亨は父の死をきっかけに山小屋を継ぐ決心をする。従業員の愛と山岳仲間と共に深い雪の中から山小屋を掘り出し開業準備をしていると、父と親しかった登山家の悟郎がやってくる。亨は悟郎から様々な山での知恵を学んでいく。

オープン初日から山小屋は大賑わい、慣れない肉体労働に亨は疲れ果てるがカネにはかえられない充実感も得る。一方で登山客の安全に対する気負いも強く、ハイキング気分の登山者や己を過信する大学生が急変する天候に対応しきれず遭難すると、危険を顧みずに救助に駆けつける。宿泊客に山の素晴らしさを伝えるだけでなく無事下山させてやっと仕事が終わる。山小屋の主人としての自覚が芽生え人間としても大きくなった亨の背中が頼もしい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

それらの責任感はすべて亨が山の先輩や馴染み客から聞かされた父の思い出話が生み出している。大人になってからは疎遠になった父の最期の言葉に応えてやれなかった後悔と、初めて知った父の胸中。厳しい環境だからこそ人と人の絆は固くなる。彼らを包み込む荘厳で美しい風景をとらえた映像には、魂が浄化されるようだった。

オススメ度 ★★*

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