こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エスケイプ・フロム・トゥモロー

otello2014-06-18

エスケイプ・フロム・トゥモロー
Escape from Tomorrow

監督 ランディ・ムーア
出演 ロイ・アブラムソン/エレナ・シューバー/ケイトリン・ロドリゲス/ジャック・ダルトン/ダニエール・サファディ
ナンバー 137
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

心躍るバケーション、掉尾を飾るはずだった遊園地での一日が一本の電話でみじんに砕かれてしまう。それでも父は子供たちに思い出を作らせようと平静を装うが、抑圧していた鬱憤は奇妙なヴィジョンとなって彼に襲い掛かっていく。映画は妻子連れで“夢の国”を訪れた男が体験するシュールな悪夢を再現する。言いつけを守らない息子と目を離せない娘、そして口うるさい妻。せっかく自分も童心に戻ろうとしていたのに、苛立たしさばかりが募っていく。いつも大混雑しているテーマパークではしゃぐ女房子供を尻目に、主人公が醸し出す“疲れ切ったお父さん”のうんざり感が絶妙だ。

滞在先のホテルでクビを宣告されたジムは妻・エミリーに切り出せないままディズニーワールドに入園するが、息子と並んだ人気アトラクションは長蛇の列、娘は転んでケガするなど不運が続く。だが、セクシーな熟女と愉しいひと時をすごしたりもする。

ホテルからのモノレールに同乗したフランス人娘2人組につい視線が行ってしまうジム。彼女たちの若さあふれる奔放な振る舞いにときめきつつ、話しかけるチャンスをうかがう。その間にも幻覚が増殖しジムの思考を侵食していく。息子の目全体が黒くなったり、歪んだ人形の顔から悪意が垣間見えたり、七面鳥の肉をエミュと教えられたり、ジムの感覚がとらえる光景が少しずつ現実からかい離していくのだ。しかしここでは無理にでも笑顔でいなければならない。嘘っぽさに塗りつぶされた怒りや嫉妬といった負の感情が噴出する瞬間をとらえたモノクロの映像が、間違った場所に来てしまったことに対する警報を鳴らし続ける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

それは、面白くない日常を忘れるために遊びに来たのに、1日の終わりに待ち受ける“失業”という絶望感に直面するのが分かっているから。悩みを家族と分かち合えない孤独と暴走寸前で自制してしまうジムの臆病さが、いかにも小市民的で哀しい。ハッピーになれない者は排除されるこの国のルールが、見てはいけないものを見てしまったような恐怖感にリアリティを与えていた。

オススメ度 ★★★*

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