こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

渇き。

otello2014-07-02

渇き。

監督 中島哲也
出演 役所広司/小松菜奈/妻夫木聡/清水尋也/二階堂ふみ/橋本愛/國村隼/黒沢あすか/青木崇高/オダギリジョー/中谷美紀
ナンバー 153
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

怒り、嫉妬、誘惑、強欲、憎悪、恨み…。心に棲むあらゆる負の感情を短いカットと様々な技法を反映させた映像は、血と暴力に昇華されていく。カネのためでもない、復讐のためでもない、ただ甘い言葉を他人に囁き快感の代償を支払わせる少女は、周囲の人間を背徳と退廃のとろけるような地獄に突き落とす。物語は自分の娘を捜す男が思わぬ真実に遭遇し煩悶する姿を描く。彼女はトラブルに巻き込まれたのか、まだ生きているのか、なぜ悪に染まっていったのか。主人公は娘を思う気持ち以上にやり場のない鬱憤を爆発させ、その過程で容赦なく毒をまき散らす。

別れた妻から失踪した娘の加奈子の捜索を頼まれた藤島は交友関係を洗う。情報を集めるうちに、加奈子は中学時代から不良仲間と麻薬や売春に手浸かっていたことを知る。そして、ある秘密を盗み出したためにヤクザ組織に追われていた。

同時に起きたコンビニ殺人事件の重要参考人として警察から監視されている藤島。次から次に明らかになる新事実に藤島は打ちのめされ深く傷つくが、比例するように粗暴になっていく。手負いの猛獣のごとく近づくものすべてに敵意をむき出しに暴走する藤島を演じた役所広司が、狂気と紙一重の凶暴さを内包した不快極まりないエネルギーを発散させていた。一方で天使の顔と悪魔の邪心を使い分ける加奈子の、堕落を象徴するような笑顔が不気味な魅力を放つ。目を覆いたいけれど指の隙間からつい覗き見してしまう、映画はそんなグロテスクな熱気を強烈に放出し続け、鋭い爪で観客の胸をかきむしり抉っていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

だが、あまりにも表現主義に走ってしまったがゆえに謎解きの要素がおろそかにされ、事件自体の裏に潜む汚職のカラクリや巨悪の存在の影が薄い。いや、むしろ事件の全貌を解明するといった普通のミステリーにする意図はハナからなく、藤島は加奈子の“正体”暴露に全精力を注ぐ。それは、己の血を引いた醜悪なモンスター・加奈子への最初で最後の愛。圧倒的な絶望感だけが残る作品だった。

オススメ度 ★★

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