こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

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otello2014-07-05

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監督 パブロ・ラライン
出演 ガエル・ガルシア・ベルナル/アルフレド・カストロ/ルイス・ニェッコ/アントニア・セヘルス/マルシャル・タグレ
ナンバー 149
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

内乱、戦死者、逮捕、拷問、追放、処刑、行方不明・・・。現政権が反対派自国民に行った血の弾圧を告発するTV広告にはっきりとダメだしする主人公。悲惨な歴史など誰も思い出したくない、有権者の心をつかむにはもっと“喜び”を提示しなければならないと主張する。無党派層の足を投票所に運ばせるために商品広告の手法を持ち込み、反対派幹部たちの固い頭をほぐしていくのだ。映画は1988年チリの大統領信任投票を舞台に、反対派の広告を作った男の目を通じて独裁の終焉を描く。だが、彼の“熱い思い”が注がれたのは、政治ではなく、広告の出来栄え=大衆への訴求力。思想信条ではない、プロとしての最善を尽くそうとしただけというスタンスがクールだ。

大統領信任反対派のTV告知枠のプロデュースを任されたレネは、マーケティングを反映させた斬新な広告で支持率を上げていく。やがて政府の見張りや尾行がつくようになるが、反対派クリエーターたちは最後まで戦い抜く決意を貫く。

ピノチェ大統領派が個人礼賛広告ばかり打つのに、レネの戦略はMTV風からホームビデオ風まで、イメージ重視。過去を肯定して現状を追認する大統領派に対し、理想の未来を見せることで現在を否定するきわめて洗練されたテクニックだ。それが受け入れられたあたりにチリ国民の成熟度がうかがわれる。豊かな暮らしが手に入れば次に欲しいのは自由、冒頭のコーラCMがチリ国民の最大の願いを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

古い資料のような質感に80年代の空気が凝縮され、ディテールに至るまで再現された映像はまるで当時のニュースフィルムを見ている気分になる。その中で身の危険を警戒しつつも、レネはあくまで自分が納得のいく“作品”を作ろうとする。そして、開票結果に熱狂する反対派の中でひとり冷めたレネが、直後に大統領派だった上司から仕事を回してもらっている。この上司も失脚したわけではなさそう。そんな、政治とは一定の距離を置く広告業界のしたたかさが印象的だった。

オススメ度 ★★★*

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