こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

聖者たちの食卓

otello2014-07-10

聖者たちの食卓 Himself He Cooks

監督 バレリー・ベルトー
出演
ナンバー 154
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

近隣の畑で収穫されるジャガイモ、麻袋に詰められ倉庫にうずたかく積み上げられた小麦粉、ニンニクの皮をむき微塵切りにする男と女。朝靄たなびく時刻から始まる調理、それは祈りにも似たこの地の信者の神聖な仕事だ。こねられた粉は引き伸ばされて円盤状のパンに焼きあげられ、大鍋で煮られた野菜はカレーに姿を変えていく。大広間では長いカーペットが敷かれ、巡礼者が来るのを待つ。映画は参拝者に無料で食べものを振る舞うシク教徒の聖地・ハリマンディル サーヒブの“黄金寺院”厨房の忙しい一日を追う。神の前ではみな平等という教義の下、身分性別年齢に関係なく扱われ、代わりに厳格なルールを守らなければならない。“食べる”のは“生きる”原点、現実的欲求をまず満たすことで、あらゆる人間の命を尊重しているのだ。

大量の食糧と燃料が搬入されたキッチン、男も女もその日の下ごしらえをし、火にかける。長蛇の列を作る群衆に食器を配り、食堂の中では彼らの皿にカレーや水、ヨーグルト、パンが載せられていく。

粉袋や大鍋、一斗缶、バケツの運搬、そして焼く、煮る、炊く、洗うといった手順は人力による手作業。機械を導入し適切に人員を配置すればもっと早くこなせるのに、ここには効率を追求する発想はない。確かにプロパンガスの使用や食器・調理器具・水道など“近代化”した部分はある。だが、労働を分かち合い、労働での奉仕こそが歓びと彼らは考えるのだろう。また、途方もない量の食材はすべて寄付で賄われているが、これだけの事業を運営するには年間を通じた綿密な計画が必要なはず。監督する者などいない、にもかかわらず滞りなく進行するのが奇跡のようだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

こうして供される食事は1日に10万食(!?)にもなる。食べる人々も、貧しさゆえの飢えをしのぐために来たのではない。我々とはまるで違う時間の流れと人生に対する姿勢に、人間の幸福とはなんなのかを再考させられた。

オススメ度 ★★★

[ :title=↓公式サイト↓]