こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トム・アット・ザ・ファーム

otello2014-07-30

トム・アット・ザ・ファーム Tom a la ferme

監督 グザヴィエ・ドラン
出演 グザヴィエ・ドラン/ピエール=イブ・カルディナル/リズ・ロワ/エブリーヌ・ブロシュ
ナンバー 173
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“同性愛者は愛するよりも先に嘘をつくことを学ぶ”。篤い信仰と保守的な考え方が支配する農村地帯では同性愛は禁忌。ゲイの次男を持った母はその事実を告げられないまま彼の死に直面し、長男は母を傷つけないように作り話をする。映画は弔問に訪れた次男の“恋人”が偽りの芝居につき合わされる過程を描く。脅迫と暴力、携帯電話の電波も届かない僻地で囚われの身となった主人公は、いつしか家族の一員のごとく振る舞い始め、そこでの暮らしに馴染んでいく。強制された人間関係は息苦しいが“恋人”の思い出は懐かしい、逃げ出そうと思うがこのままでいい気もする。そんな複雑な感情の動きをクサヴィエ・ドランが繊細に表現し、大胆に演出する。

“恋人”ギョームの葬儀に出席するために農場を訪問したトムは、ギョームの兄・フランソワから母・アガットに同性愛者と気づかれるなと乱暴に脅され、サラというガールフレンドの話をでっち上げる。

悲しみで動揺し弔辞を読めなかったトム。ギョームへの愛を隠し通さねばならない憤りが更に彼を苛立たせるが、フランソワの圧倒的な腕力の前に己の非力さを認めざるを得ない。それでも、トムはギョームの部屋で寝泊まりし、ギョームの服を着、ギョームがかつて従事したであろうウシの世話を通じて彼への思いを再確認している。フランソワの横暴は耐え難いが、農場ではギョームの存在を強烈に感じられる。トムは気持ちの整理がつかないまま、サラを農場に呼びつける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ギョームへの尋常ならざる兄弟愛、華麗なステップを踏むトムとのダンス……、粗暴さゆえに村八分にされているフランソワも実は自身の内なるゲイの部分を抑圧しているのだろう。しかし、この村にいる以上、決して他人に悟られてはいけない。アガットも息子たちの性癖を薄々感づきながら目をそらしている。誰もが心に傷を抱えながら、生きるために自分を偽って折り合いをつけている。だが、心ではなく、顔に大きな傷跡を残した男を見たとき、真実こそが人を自由にするとトムは知るのだ。

オススメ度 ★★★

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