こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

レッド・ファミリー

otello2014-08-14

レッド・ファミリー

監督 イ・ジュヒョン
出演 キム・ユミ/ソン・ビョンホ/チョン・ウ/パク・ソヨン
ナンバー 188
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

年長者への敬意、夫婦間の思いやりといったモラルは地に落ち、モノを大切にせず食べ物を粗末にする堕落した資本主義の典型のような隣人。そんな彼らを尻目に質素な食事に満足する家族は、言いたいことも口にできず、ただ祖国と党のために暗殺を繰り返す。物語は韓国で暮らす北の工作員がスパイ活動に従事するうちに、ケンカばかりしていてもすぐに仲直りする韓国人一家と交流を結び、本当の家族とは何かを考えなおす過程を描く。南の市民が北よりも物質的にも自由にも恵まれている事実は知っている。人殺しの後味の悪さも慣れれば我慢できる。だが、肉親への思いは断ちがたい。そしてそれを逆手に取る指導部のやり方にいつしか疑問を覚えていく。“工作員である前に人間だ”、という叫びが、彼らの悲しみを象徴していた。

妻役のスンヘ率いる北朝鮮人偽装家族は、普通の住宅街にアジトを構えている。隣家の祖母に祖父役のミョンシクが話しかけられ、息子のチャンスを娘役のミンジが助けたのをきっかけに2家族はお互いの家を行き来し始める。

脱北親子暗殺指令を受けた時、スンヘが乳児を殺せず彼らの規律にヒビが入る。裏切り者は殺せても無垢な命までは奪えないのは彼女にまだ良心が残っていた証拠。さらにホームパーティで泥酔したスンヘがつい本音を漏らす。このあたり、韓国人のバカっぷりと北朝鮮人の暴力がコントラストをなすが、あくまで日常の延長線上といったゆるい空気が韓国社会に遍在する北の工作員の存在を際立たせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて先走ったスンヘは致命的ミスを犯し、監視役からチャンス一家の殺害を命じられる。命令と友情の間で揺れ動く工作員たち。自国民を隷属させ、愛する者を人質にとって忠誠を誓わせシステムが上層部から人民にまで浸透している。体制こそが悪で、厳しい思想教育を受けた北の工作員たちも実は感情を持つ人間。スンヘたちがチャンス一家のセリフをまね、ほんの一時だけでも家族の気分を味わおうとする、その切ない芝居に北の人々の本心が凝縮されていた。

オススメ度 ★★★

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