こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

誰よりも狙われた男

otello2014-09-08

誰よりも狙われた男 A MOST WANTED MAN

監督 アントン・コービン
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン/レイチェル・マクアダムス/グレゴリー・ドブリギン/ウィレム・デフォー/ロビン・ライト/ホマユン・エルシャディ/ニーナ・ホス/ダニエル・ブリュール/マハディ・ザハビ
ナンバー 206
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

尾行、盗聴、監視、脅迫…。ターゲットと定めた人間を徹底的にマークし、弱点を見つけ、しつこく攻める。最初は強硬な手段もとるが、その後は宥めすかし、心理的に後戻りできないような状況に追い込んでいく。派手な銃撃戦もカーチェイスもない、超人的な工作員も出てこない、日常のすぐ隣にある諜報の世界、物語は対テロ組織犯罪の最前線で地道な活動を続けるスパイたちの息遣いを再現する。時に “正義”を説き、相手の良心に訴え、普通の市民を協力者に仕立てていく過程は、スリリングかつサスペンスフル。裏切りと欺瞞、駆け引きと取引き、後ろめたさと緊張感が入り混じった映像は、人が人を信用する気持ちを利用する途方もないやるせなさに満ちている。

密入国者のイッサの動向を見守るテロ対策チームのギュンターは、イッサが弁護士のアナベルを通じて銀行家のブルーから父の遺産を受け取ろうとしているのを察知、ブルーを囲い込む。

イッサの拘束を迫る上部組織やCIAに対し、更なる大物を逮捕したいギュンターはイッサを泳がせることを主張する。一方で善意からイッサに手を貸すアナベルと、不正なカネと知っても銀行家の責任を果たさなければならないブルーは、ギュンターの術中にはまり、いつしか自らの信念に折り合いをつけ言いなりになってしまう。自分の選択が正しくないのはわかっている、それでも従わなければ破滅する、その苦悩と葛藤がリアルだ。ギュンターもイッサのテロ関与が疑われる以上、退くに退けない。栄光の勝利など存在しない、前に進むしかない彼らの運命が哀しみを誘う。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

イッサもアナベルの動きにわずかな変化を感じ始めている。信じたいのに信じられない、でも信じる以外に生き残る道はない。そんな中で行われる秘密の会合。膨れ上がる疑心暗鬼と不安、しかし安全保障というお題目の前では、個人の思いや感情など取るに足らない些事にすぎない。そして彼らを操ってきたギュンターでさえ、使い捨ての駒に過ぎない皮肉。じめついた冷たいトーンがギュンターを襲う圧倒的な敗北感を象徴していた。

オススメ度 ★★★★*

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