こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イヴ・サンローラン

otello2014-09-09

イヴ・サンローラン Yves Saint Laurent

監督 ジャリル・レスペール
出演 ピエール・ニネ/ギョーム・ガリエンヌ/ シャルロット・ルボン/ローラ・スメット/マリー・ド・ビルパン/ニコライ・キンスキー/マリアンヌ・バスレール
ナンバー 210
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

プライドを誇示するかのようなきりりと通った鼻筋とは対照的に、黒縁メガネの奥で視線は泳ぎ不安を隠せない。シャイで神経質、それでいて彼のデザインは大胆で斬新。映画は20世紀パリのファッション界をけん引したデザイナーの葛藤と栄光の半生と、公私にわたって彼を支えた男との絆を描く。記者の前での緊張、小さなサロンで開かれたコレクション、マラケシュの別荘や美術品の蒐集、他人とは分かち合えないプレッシャー、酒とドラッグ。それらのエピソードに強烈な既視感を覚えたのは2011年に公開された同じタイトルのドキュメンタリーゆえだろう。それほどまでに役者たちは実在の人物の癖や表情を研究し、出来事や状況を忠実に再現していた。

ディオールの後継者に指名されたイヴはコレクションで大喝采を浴びるが、デザイン以外の雑事に忙殺される。そんな時、美術界の後援者・ピエールと出会い、兵役不適格や新ブランド立ち上げといった苦難の時期を乗り切っていく。

デザイナーというよりはむしろ気難しいアーティスト。イヴの才能をいち早く見抜いたピエールは彼に忠誠を誓い、身の回りの世話を一手に引き受ける。最初は激しく求め合う恋人同士、だが時を重ねるとともに、お互いの人間関係に嫉妬したり不満を抱いたりもする。後にイヴはホモ愛人・ジャックに夢中になるが、それでもピエールとのビジネス上の付き合いは決してやめない。イヴとピエールの間にあるふたりだけに理解できる固い信頼は、移ろいやすい友情や愛情とは一線を画す神聖な契約のようだ。イヴの苦悩すら愛するピエールの献身こそがイヴの痛みを和らげ、新たな創造のインスピレーションになっていたのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

途方もない成功と名声を手に入れたイヴが口にする「孤独」という言葉は、トップに立った者ならだれもが感じる虚しさの裏返し。1台のバイクに二人乗りして砂漠を走るシーンが、見つめ合うのではなく同じ目的地に向かって進むのが“真のパートナーシップ”であることを象徴していた。

オススメ度 ★★★

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