こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

紙の月

otello2014-10-09

紙の月

監督 吉田大八
出演 宮沢りえ/池松壮亮/大島優子/田辺誠一/近藤芳正/小林聡美/石橋蓮司
ナンバー 234
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

線路を挟んだ反対側のホームから見覚えのある青年がこちらを見つめている。目があった彼女は滑り込んできた電車に背を向けて階段を駆け上り、彼が立つホームに急ぐ。忘れていた胸のときめき、抑えきれない肉体の疼き。どちらともなくふたりは寄り添い、気が付けばホテルで抱き合っている。物語は大学生と恋に落ちた中年女が愛欲の果てに横領を繰り返す過程を描く。仕事にやりがいを覚えているが札束は目の前を通り過ぎていくだけ。郊外のマイホームは快適だけれど夫は無関心。平凡すぎる日々に女としてこのまま枯れてしまうのではという思いばかりが膨らんでいく。そんなヒロインの将来に対する漠然とした不安を宮沢りえがリアルに演じる。

銀行の営業ウーマン・梨花は小金持ちの老人に金融商品を売る毎日、それなりの成績を上げている。ある日、訪問先で出会った光太に駅で声をかけられたことから親しくなる。光太は大学の学費を払うために多額の借金を抱えていた。

初めて客のカネに手を付けた時の緊張感、気づかれずに戻せば何の問題もない。やがて光太の祖父から預かったカネを光太に渡し、伝票操作にも成功すると、梨花は大胆になっていく。大銀行の看板を疑わない老人たちなら簡単に騙せる、おばさん行員以外はチェックも甘い。くすねたカネを光太との享遊に惜しみなくつぎ込み、梨花の手口はさらに大がかりなものになっていく。犯罪なのはわかっている、いつか露見するのも知っている。映画は、堕ちていく自分が罰せられるのを待つかのような彼女の暴走をスリリングに再現する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

窓を壊して2階から飛び降りた梨花はひたすら走る。今までの贅沢はすべて偽物、いやこれまでの人生そのものが偽物だったと彼女は感じたのだろう。だが、断罪されそうになった現場から逃亡している“今”は紛れもなく現実。盗んだのは誰かの役に立てるためと言い訳する梨花の姿に、強さと弱さが入り混じった人間の真実が浮き彫りにされていた。

オススメ度 ★★★★

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