こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヴェラの祈り

otello2014-10-22

ヴェラの祈り IZGNANIE

監督 アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演 コンスタンチン・ラブロネンコ/マリア・ボネビー
ナンバー 242
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

美しい妻と2人の子供に恵まれた男は、心の底に小さな罪悪感を抱えながらも、絆を深めるために人里離れた一軒家に家族を連れていく。そこは駅からも遠く、クルマがなければほとんど身動きできない孤立した世界。お互いを見つめ合うしかない状況で、夫は妻から衝撃の告白を受ける。物語は、妻子を顧みなかった主人公が一転して父親の役割を果たそうとしたとき、逆に家庭が崩壊するという皮肉を描く。田園地帯の一本道から陰鬱な工場地帯の大通りを抜けさびれた街角まで、1台のクルマが通過した風景の変遷は、そのまま登場人物がたどった運命の混沌とした暗転を象徴していた。

兄・マルクの腕から銃弾を抜いたアレックスは、妻・ヴェラと息子・娘の4人で、父が遺した古い家にバカンスに出かける。だが、ヴェラが突然他人の子を妊娠したと言い出し、アレックスはマルクに連絡を取る。

マルクはヤミ仕事で日銭を稼ぎつつもアングラ人脈も持っている。アレックスはことあるごとにマルクを頼っている。その割に2人はヴェラに隠れて会うなど、どこかぎこちない。それら背景となる設定に説明はなく、会話から想像するしかない。一方で、アレックスとヴェラに向けられたカメラは感情の微妙な変化を見逃すまいと彼らを凝視する。アレックスの抱く怒りと嫉妬、ヴェラが抑制してきた不満と閉塞感。倦怠期の雰囲気が漂う夫婦の虚ろな関係にひびが入って行く過程が、ふたりが口にする言葉の裏側を読むうちに浮かび上がってくる。そんな映像の仕掛けが鮮やかだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが中絶手術後にヴェラは様態が急変、息を引き取ってしまう。アレックスは拳銃を手に“浮気相手”のところへ乗り込んでいく。そこで知らされた真実。もっと自分を見てほしい、子供たちを大事にしてもらいたい。ヴェラの苦悩に気づかぬふりをしていたアレックスの後悔が、ハリウッド的なスピード感へのアンチテーゼとも思える冗長なショットの端々からにじみ出ていた。。。

オススメ度 ★★*

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