こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エレナの惑い

otello2014-10-30

エレナの惑い ELENA

監督 アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演 ナジェジダ・マルキナ/アンドレイ・スミルノフ
ナンバー 252
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

自立できない一人息子の面倒を見ながらつつましい暮らしに耐えてきた。年上の富豪と再婚した時は未来が開けるかと期待した。だが、今では寝室も別々、夫の身の回りの世話をする家政婦のような扱いを受けている。物語はそんな妻が夫の病気をきっかけに自らの欲望をむき出しにしていく姿を描く。決して自分のためではない、かわいい孫を大学に進学させたかっただけ。憎かったわけではない、もう少しかまってほしかっただけ。あらゆる価値が経済力で測られるようになった21世紀ロシア、金銭を媒介にしなければ家族の関係すら維持できない。そしてその先にある相剋。世の中にはびこる拝金主義とまだまだ女性の地位が低い現状がリアルに再現される。

高級アパート住まいのエレナはいまだ息子一家の生活費を援助しているが、吝嗇な夫・ウラジミルは支払いに渋い顔。心臓発作を機に遺言を書くと言い出したウラジミルに寄り添いつつ、エレナは遺産の行き先を心配する。

絶縁状態だったウラジミルの娘・カテリナと連絡を取ったエレナは、図らずも彼女に本心を見抜かれてしまう。カテリナもまたカネのせいで人生が狂った、だからこそエレナの“財産目当てで金持ちの後妻になった女”という本性が理解できるのだ。元看護師だったエレナはウラジミルを退院させ自宅で彼を介護するが、それは彼がカテリナが過大に相続するのを阻止するため。ウラジミルにとっては唯一の肉親・カテリナは愛憎相半するバカ娘、結局他人がうらやむほど蓄財しても信用できる人間がだれもいない孤独をウラジミルは体現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてウラジミルにバイアグラを飲ませたエレナは、計画通りかなりの資産を手にする。ところが、息子も孫も感謝はつかの間、さらにエレナへの依存を強めていく。親子間にも夫婦間にももはや愛は存在しない。いや、カネで愛を買えるのはまだましなのかもしれない。エレナがウラジミルと同じ運命をたどる予感を漂わせる映像が、皮肉に満ちた現代の“家族のかたち”を象徴していた。

オススメ度 ★★★*

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