こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

繕い裁つ人

otello2014-11-01

繕い裁つ人

監督 三島有紀子
出演 中谷美紀/三浦貴大/片桐はいり/黒木華/杉咲花/中尾ミエ/伊武雅刀/余貴美子
ナンバー 254
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

背筋をまっすぐに伸ばしてミシンを踏む。そのリズムはガンコ職人である彼女の生き方を象徴するかのように、単調だが誠実、軽やかだが丁寧。オーダーメイドの服を一着ずつ仕上げることにこだわるプライドでもある。そんな、凛としたたたずまいを最後まで崩さないヒロインは、涼しげな目、真剣な目、考え事をしている遠くを見る目など、ほとんど目元の動きで感情を表現する。物語は、彼女が仕立てた洋服を通じ、装いが人生を晴れやかにすると訴える。さらに足しげく通ってくる営業マンが言い当てた、彼女自身の封印していた夢。受け継いだものを守っていくだけでは未来は先細りする。伝統を保つためにはそこにオリジナリティを加えて少しずつ洗練させていく覚悟が必要なのだ。

腕のいい洋裁店・市江の服をブランド化しようとする藤井は何度も店を訪れるが、市江は一向に興味を示さない。それでも藤井は市江と時間を共にするうちに、彼女の秘めた思いに気づいていく。

逆光の中で窓際に置いたミシンに向かう市江、丘の上の古い洋館、坂の途中のレトロな喫茶店、高台から見下ろす港の風情ときらびやかな夜景、着飾った紳士淑女がダンスに興じる夜会。それら市江の日常がつややかで深みのある映像に収められる。“夢見るための洋服”作りが仕事の市江にとって世界は美しくなければならない。どこか浮遊感が漂う彼女の身のこなしや話し方がファンタジーを見ている気分にさせてくれる。チーズケーキをホールで食べる表情すら気品と透明感に満ちた中谷美紀の優雅な雰囲気が、この映画を上品なアートに昇華させる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

祖母から教わった確かな技術は持っていても、それだけでは祖母は越えられない。一方で市江は変化でむしろ傷つくのを恐れている。藤井は彼女の本心を見抜き指摘するが、逆に彼女を頑なにさせている。密かに自分のデザイン帖を見つめ直す市江の背中は、夢を追ってこそ夢を売る人間になれると語っていた。

オススメ度 ★★★

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