こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シャトーブリアンからの手紙

otello2014-11-03

シャトーブリアンからの手紙 LA MER A L'AUBE

監督 フォルカー・シュレンドルフ
出演 レオ=ポール・サルマン/マルク・バルベ/ウルリッヒ・マテス/マルタン・ロワズィヨン/ヴィクトワール・デュポワ/ジャン=マルク・ルロ/セバスチャン・アカール
ナンバー 256
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

良心、誇り、命。戦争という大きなうねりの中で人々は尊厳を守ろうとするが、巨大な権力の前では個人は小さな歯車にしかすぎず、理性は役に立たない。それでも、明らかに人道から外れた措置にはできる限りの範囲で抵抗はしようとする。物語は1941年、多数のフランス人が見せしめに銃殺された史実をもとに、事件にかかわった独仏の当事者たちの葛藤を追う。フランス統治を円滑に進めたいドイツ司令官、ドイツ軍の手先にならざるを得ないフランスの公務員、そしてリストに名前を載せられた囚人たち。何をすべきか、何をすべきでないか、覚悟を決めて胸を張る死刑囚と心の痛みに耐えながら命令に従う看守やドイツ兵。大義に殉ずる者と理不尽に苦悩する者の対比が鮮やかだ。

ドイツ軍将校が暗殺され、実行犯が逮捕されないままショワゼル収容所は27人の政治犯を処刑せよ命じられる。郡の副知事、収容所長らフランス人はドイツ軍には逆らえず死刑囚を選別。その中には17歳の少年・ギィも含まれていた。

パリのドイツ軍司令部でも行き過ぎた報復はフランス人の反感を買うと乗り気ではない。何よりヒトラーに忠誠を誓っていない将校クラスの軍人たちは、“ドイツは工業力では勝っても文化や食では劣る”とフランスに敬意すら抱いている。この言葉に象徴されるように、教養あるドイツ人はフランスに深い理解を示し、むしろナチスに反感を抱いていたのだろう。また、独仏の真の敵はソ連と意識しているあたり、自由対ファシズムといった単純では図式では測れない先の大戦の構図が浮かび上がる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

別棟に移されたギィたちは遺書を書くために渡された紙に、自らの人生を顧みて愛する者への思いを認める。泣き言も恨み言も飲み込んで、伝えるのは感謝の気持ちだけ。映画は事件に対しての評価は下さない、だが記憶を風化させないことが死者への最大の供養。こんな悲劇が繰り返されないように心掛けるのが残された者の使命なのだと訴える。

オススメ度 ★★★

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