こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

さよなら歌舞伎町

otello2014-11-15

さよなら歌舞伎町

監督 廣木隆一
出演 染谷将太/前田敦子/イ・ウンウ/ロイ/南果歩/忍成修吾
ナンバー 264
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“オレはここにいる人間ではない”。誰もがそう思いながらも、なかなか抜け出せない。それは皆己を偽って生きているから。就職浪人、出稼ぎ韓国人、逃亡中の男女、不倫カップル、家出少女……。彼らはかりそめの別人を演じて、本当の自分、送りたかった暮らしは他のところにあると言い聞かせているのだ。カメラは新宿歌舞伎町のラブホテルのとある一日、そこで繰り広げられる、行き場のない人々の人間模様を追う。その過程で、見たくないものを見、知りたくないことを知ってしまう主人公。目の前で展開する欺瞞と嘘に翻弄されつつも、自ら行動しなければ何も変わらない、何も変えられないと気づいていく。カネとセックスにまみれた汚れた街、それでも時おり人の優しさに触れたりもする。そんなあたたかい視線が心地よい。

ミュージシャンの卵・沙耶と同棲中の徹は勤務先のラブホでAV女優となった妹と再会する。デリヘル嬢のヘナは恋人のチョンスに仕事内容を気づかれる。傷害事件の時効が目前の里美と康夫はあと1日耐え忍ぼうとする。

一流ホテルに勤めていると吹聴していた徹は妹を説教しようとするが、逆にプロ意識を持ってAVに出演している妹に言い返される。厳しい現実に対峙せず逃げていた徹は黙り込むしかない。一応店長としてわけありの男女を管理する立場、きっと学歴もあるのだろう。そのプライドが邪魔をして、あらゆる“ラブホ的な事象”を冷めた目で見ている。一方、性風俗に関わる女たちは真摯に“今”と向き合っている。ヘナと暴力客、家出娘とナンパ師などのエピソードは、この街もまだまだ捨てたものではないと感じさせる人情にあふれていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

愛のないセックスを重ねてきた者は真実の愛に出会い、愛し合っていたはずの男女はセックスを介して垣間見た相手の本音に戸惑う。皮肉に満ちた人生の縮図、やるせなさの中で見いだせた小さな希望が苦い清涼感をもたらす作品だった。ただ、女刑事が里美に手錠をかけるが、現行犯でもなく逮捕状もないのに里美の身柄を拘束できるのか?

オススメ度 ★★★*

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