こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アゲイン 28年目の甲子園

otello2014-11-27

アゲイン 28年目の甲子園

監督 大森寿美男
出演 中井貴一/波瑠/柳葉敏郎/和久井映見/門脇麦/工藤阿須加
ナンバー 275
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

懸命に白球を追った。無心でバットを振った。どこよりも厳しい練習を積んできた。だがあと一歩のところで届かなかった。負けたのなら心の整理はつく、負けなかったからこそ、男たちの胸に大きなしこりとなって残っている。物語は、不祥事で全国大会出場を逃した元高校球児たちが二十数年後に再び集まり、叶わなかった夢を追う姿を描く。あの頃の情熱はない、背負うモノも違っている。それでもかつての仲間を集め錆びついた体を鍛え直して行くうちに、面倒事を避けてきた現在の自分とも正対するようになっていく。くたびれた中年男がひたむきに変わっていく過程は、冴えない日常を再起動させる旅でもある。そんな主人公を中井貴一が哀愁を漂わせた背中で演じる。

妻子に去ら一人暮らしの坂町の下に、高校時代のチームメイト・松川の娘・美枝が訪ねてくる。美枝は震災死した父の遺品の中から見つけた“送られなかった年賀状”の意味を坂町に問うと共に、マスターズ甲子園に誘う。

松川の起こした暴力事件のせいで県予選決勝戦を辞退した坂町たちの代、同期の投手・高橋もいまだくすぶった気持ちを抱えている。美枝に過去の事件を伝えづらい坂町は逡巡するが、まっすぐな美枝の態度に徐々に参加する気を固める。もう一度戻りたい、そこには失われた青春への憧憬と本気になるのを忘れていた己を見つめ直す自省があふれ、坂町は同時に冷え切った娘との関係をやり直そうと決意する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一条の夕日が一塁側スタンドからホームプレートに延びる一瞬をとらえた神々しいまでに美しい冒頭のシーンから、「一球人魂」という言葉に込められた亡き父の思い、そして家族の絆を取り戻すためのキャッチボール。甲子園とはそこを目指したすべての人にとっての聖地であり、記憶の貴重な1ページ。人生は“勝ち”ばかりではない、きちんと負けて、その“負け”と向き合った時に初めて次に進むことができるとこの作品は教えてくれる。

オススメ度 ★★★*

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