こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して

otello2014-12-03

ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して JIMMY P.

監督 アルノー・デプレシャン
出演 ベニチオ・デル・トロ/マチュー・アマルリック/ジーナ・マッキー/ラリー・パイン/ジョセフ・クロス
ナンバー 231
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

肉体の傷は完治し医学的にはまったくの健康体。脳のダメージも完全に回復している。にもかかわらず時折激しい頭痛に襲われ視界がちらつき過呼吸になる。原因は戦争の悲惨な体験なのかもっと以前にあるのか、第二次大戦の帰還兵はそんな症状に苦しみながらカウンセラーと共に自らの人生を顧みる。アメリカ原住民と欧州出身のユダヤ人、映画は迫害された歴史を持つ民族の血を受け継ぐ者同士に共鳴する魂の傷を探ろうとする。祖国のために戦った英雄として表面上の敬意は払っている、それでも主人公を“インディアン”と呼ぶ米国白人たちの微妙な差別意識、というより差別的な言動を戒めようとする姿が1948年米国の田舎の空気を反映する。

日常生活に差し支えるほどの体調不良に悩まされるジミーは、大病院で精密検査を受けるが異常は見つからない。飲んだくれて倒れた挙句閉鎖病棟に収容された彼を、NYから招かれた人類学者・ジョルジュがカウンセリングにあたる。

インディアンの行動様式を研究するジョルジュはジミーの記憶と夢についての話を聞き出そうとする。忌まわしく恐ろしいものばかり、しかしむしろ戦場で見た光景よりも、女性遍歴に不定愁訴の元凶が潜んでいるのが明らかになっていく。夢は“過去”の総括ととらえて西洋的な解釈をするジョルジュと、“未来”の予言ととらえるインディアンの考え方を踏襲するジミー。狂気と紙一重のところで生きるジミーの苦悩を、ベニチオ・デル・トロが苦痛の奥に深い悲しみを湛えた瞳で表現する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

妻の浮気と離婚、幼馴染の姉妹、カン違いしていた恋人の裏切り、まだ見ぬ実の娘。それら女たちとの関わりこそがジミーのよりどころだったのだろう。そして軍隊という白人社会の中で目立ちすぎないように感情を殺してきた彼にとって、その封印された記憶を解放させることが治療法ではなかったのか。明白な答えはない、ただ、心の闇は言葉にして吐き出せば光が差すのは確かなのだ。

オススメ度 ★★*

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