こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エクソダス:神と王

otello2014-12-15

エクソダス:神と王 EXODUS:GODS AND KINGS

監督 リドリー・スコット
出演 クリスチャン・ベール/ジョエル・エドガートン/ジョン・タトゥーロ/アーロン・ポール/ベン・キングスレー/シガニー・ウィーバー
ナンバー 286
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

圧倒的な魔法を使って神の威光を示すわけではない。確固たる信仰で民を導いたわけでもない。素顔は強固な意志と卓越した洞察力を持つ軍務に長けた将軍であり、あくまで現実と向き合うリアリスト。奇跡よりも説明を求める姿は論理的な哲学者のようだ。確かに男は神に選ばれた。だがそれは結果論で、度重なる偶然が運命を変えただけにも思える。一方で常に先頭に立ち危険を克服し、時に厳しい決断を下し“暴君”となじられたりする。そんな彼の勇気と苦難に迫ることで、映画は主人公が預言者である前に一人の人間だったと訴える。「旧約聖書」最大のヒーローはいったい何者だったのか、カメラはその実像に肉薄する。

セティ王の下で王子・ラムセスと兄弟同様に育てられたモーセヘブライ人奴隷の長老から出自を聞かされる。噂が王宮に広まるとモーセは追放され、荒野を放浪した果てにたどり着いた村で結婚、9年後啓示を受けエジプトに戻る。

専制を強めるラムセスにヘブライ人の解放を要求するモーセは追われる身となり、ゲリラ戦を仕掛ける。同時に様々な災難がエジプトを襲うが、ラムセスの側近は厄災に合理的な解説を試みる。このあたり、エジプト人もヘブライ人も神や神託を妄信するのではなく理性を働かせている。ワニが暴れ魚が浮きカエルやブヨやイナゴが大発生し雹が降る、古館伊知郎なら全部「地球温暖化の影響」で片付けてしまいそうだが。さすがに“長男殺し”は超自然現象風に描かれるが、神の介入は最小限にとどめて宗教色を弱め、「聖書」に縁のない異教徒でも楽しめる構成になっている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ヘブライ人を率いてエジプトを出たモーセは紅海に到着、そこでも魔術的なクライマックスは訪れない。さらにモーセは“40万人の移住は侵略行為”という人道的な発言までする。そして手彫りの十戒。モーセ像の定番となったセシル・B・デミル作品に対してあらゆる疑問を投げかける21世紀の「出エジプト記」は、リーダーとはいかに振る舞うべきかの理想像を提示する。モーセの煮え切らなさは混迷の時代の責任者の苦悩を象徴していた。

オススメ度 ★★★

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