こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

妻への家路

otello2015-01-09

妻への家路 歸来

監督 チャン・イーモウ
出演 チェン・ダオミン/コン・リー/チャン・ホエウェン/
ナンバー 4
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

愛した過去は記憶の中でしっかりと生きている。ところが、今はすっぽりと抜け落ちている。夫と20年間離れて暮らした妻は、一度きりの再会の機会を逃したがために心の一部が壊れてしまった。物語は、そんな妻を支える夫の献身を描く。夫を助けられなかった妻の後悔、彼女の胸中を慮る夫の寛容。懐かしさとうれしさと安心、疑念と不安と悲しみといった複雑な感情が、見つめ合う目と目の間で交差し、カメラはそれら言葉にならない思いを丁寧にすくい取る。お互いの愛は本物なのに、決して交わらないふたりの気持ちが切なくも哀しい。だが、交わらないからこそ到達できる至高の境地がそこには横たわる。運命の大きな流れには逆らえないけれど、できる限りのことを続けようとする夫の姿が愛おしい。

文革中拘束されていた焉識が釈放されて帰宅するが、妻の婉玉は焉識を認識できず全くの他人のように彼を扱う。焉識は近くに部屋を借り、婉玉の脳機能を回復させるためかつて収容所で書いた大量の手紙を彼女に読み聞かせる。

娘の丹丹はバレエで革命への情熱を示そうとする。ダンスで喜怒哀楽を表現するはずの芸術が共産党への忠誠心を測る道具に堕している、そのマスゲーム風の振り付けが文革の非人間性を象徴する。ピアノを弾きフランス語も理解する焉識は裕福でリベラルな知識人階級だったのだろう、反右派闘争で標的にされても理性と優しさは失わない。文革に人生を奪われた、それでも婉玉を通じて父娘関係が修復していく過程が救いとなって、焉識に希望を与える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アルバムから切り抜かれた焉識の顔、バレエを捨て別居した丹丹。逃亡事件の後、婉玉と丹丹の母娘間ですさまじい葛藤があり、婉玉は現在と未来に対し耳目をふさいだ。焉識が思い出の曲を弾いたり手紙を朗読している時、婉玉は幸せだった時代に浸り穏やかな表情になる。昔の自分を覚えているだけでいい、報われなくても構わない。毎月5日、婉玉に寄り添う焉識は“永遠の愛”の美しさを確信させてくれた。

オススメ度 ★★★★

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