こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

悼む人

otello2015-01-15

悼む人

監督 堤幸彦
出演 高良健吾/石田ゆり子/井浦新/貫地谷しほり/大竹しのぶ/椎名桔平
ナンバー 6
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

誰に愛され愛したか、どんなことで感謝されたか。世間の片隅で悲劇的な最期を迎えた人々でも、必ず生きた証を残しているはず。主人公は見知らぬ人の死を胸に刻み、彼らの足跡をわがものにしようとする。彼の姿はまるで赦しを願う巡礼のようでもあり、悟りを目指す修験者のようでもある。本人にも明確な理由や目的は分からない、ただ、人間の“生”は“死”をもって終わるのではなく、その先もどこかで続くのではないかという問いかけの答えを模索するのみ。自己満足かもしれない、偽善に見えるかもしれない、それでも見返りを求めず死者の思い出に耳を傾ける彼に傷ついた家族は癒されていく。映画はそんな青年と旅をする女と、彼に興味を持つルポライターの目を通して、“命”とは何かを見つめる。静謐を湛えた映像は厳かな斎場に似た空気を醸し出す。

事件・事故現場を訪ね歩き、そこで亡くなった人を悼む静人はゴシップ誌記者の蒔野の取材を受けるが変人扱いされただけ。その後、夫を殺した女・倖世が合流するが、倖世は夫の亡霊に付きまとわれていた。

冥福を祈るのでもない、怨嗟を共有するのでもない。静人の悼みはなかなか理解されず、時に不審者と誤解される。一方で、貴重な時間を共に過ごした親族や友人の記憶から薄れていくなか、死者の魂を鎮めようとする静人に共感し礼を言う人もいる。片膝をつき手を片方ずつ振って胸の前で重ねる、あくまで感情を抑制し心を浄める静人の儀式的な所作を高良健吾がしなやかな動きで再現する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

蒔野も倖世も両親との関係から不遇の少年・少女期を送り、深い闇を抱えたまま中年になっている。蒔野は社会に対して素直になれず、倖世は流されるままに身を落としてきた。彼らは静人を通じて、自分も確かに誰かに愛されていた過去を思い出す。それは、彼らに点った初めての希望。静人もまた彼らの生き方に影響を与えた結果、人生の意義をわずかでも見出したに違いない。出産と臨終がシンクロするクライマックスは、人は決してひとりではないと教えてくれる。

オススメ度 ★★★

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