こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

駆込み女と駆出し男

otello2015-02-14

駆込み女と駆出し男

監督 原田眞人
出演 大泉洋/戸田恵梨香/満島ひかり/内山理名/陽月華/キムラ緑子/樹木希林/堤真一/山崎努
ナンバー 28
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

女のプライド、浮気とDV、家族の仇討…、身分も原因もそれぞれ違うけれど、離縁したいと願う気持ちは皆同じ。今のままでは自分が壊れてしまうと思い詰めた妻たちが、尼寺に身を寄せる。物語は、そんな女たちの聴き取りと世話をする御用宿に居候する男の目を通して、江戸時代末期の離婚事情を活写する。室内での登場人物のやり取りは短いショットの積み重ねとテンポの速い会話で畳み掛け、落ち着いた外観の古寺や境内でロケした屋外のシーンはしっとりとした四季の移ろいが映像に彩りを添える。その間、エピソードごとの緩急の変化に戸惑いつつも、いつしか人情味あふれる主人公の言動に引き込まれてしまう。洗練された言葉遣いに込められた薀蓄とエスプリの数々は、まさに“素晴らしくて敵わない”ほど素敵だった。

医者見習いの新次郎は宿の記録を基に戯作に励んでいたが、暴力夫から逃げてきた鍛鉄師・じょごの顔の火ぶくれを治療するうちに心を通じ合わせるようになる。だが、じょごは縁切り寺・東慶寺に入山してしまう。

男への不信感をぬぐいきれないじょごは、最初、新次郎に拒否反応を示すが、徐々に彼の人柄に胸襟を開いていく。働き者のじょごは入山後も薬草園を作り、新次郎と密会したりもする。一方、新次郎も医者として東慶寺内に病人の往診に向かうが、男子禁制の世界での振る舞いが絵に描いたようにコミカルだ。また、妻たちの追っ手を軽妙な屁理屈と舌先三寸で言いくるめるなど、普段は穀潰しなのにいざという時は矢面に立つ。男の魅力は薄いが人間的な胆力は立派な新次郎を、大泉洋が抑え気味のテンションでさらりと演じる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

2年の後、晴れて夫から離縁状をもらった女たちは寺を後にする。禁欲的な寺での生活に怒りや恨みは消え、女たちは穏やさを取り戻している。映画は、時代劇とは思えない情報量と展開の速さで、頭をフル回転させなければついていけない。それゆえ、2時間20分を超す上映時間の長さを忘れてさせてくれた。

オススメ度 ★★★*

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