こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

がむしゃら

otello2015-02-26

がむしゃら

監督 高原秀和
出演 安川惡斗/高橋奈苗/脇澤美穂/夏樹☆たいよう/世IV虎/愛川ゆず季
ナンバー 46
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

けがに悩まされながらもトレーニングは欠かさない。白内障で右目はよく見えず甲状腺にも異常がある。それでも興行がある限りリングに立ち続ける。なぜなら、プロレスラーの“キャラクター”を演じている時間だけが生きている実感を得られるから。故郷での彼女はボキャブラリーも乏しく喜怒哀楽も抑制気味、しかしひとたびコスチュームに身を包みメイクを施すと思いを饒舌に語り出す。そのギャップは人格が入れ替わったような激しさだ。映画はそんなヒロインの壮絶な日常に迫る。限界を超えた練習を課し肉体の痛みに耐えて試合に臨む、命を削る生き方しかできない。過去は振り返らない、未来は考えない、ただ、目の前の今を完全燃焼させることを突きつめる姿はまさに“がむしゃら”と呼ぶにふさわしい。

中学時代にいじめを受けた祐香は高校で演劇に出会い、卒業後養成学校に進む。他人と違うのがよしとされる学校で演技に目覚めた彼女は、女優を経て、安川惡斗のリングネームでプロレスに身を投じる。

複雑な家庭環境で育ち、レイプと自傷不登校といったお決まりの転落人生を送っていたティーンエイジャーのころを恨むでも懐かしむでもなく語る惡斗。現在の自分に自信が持てるようになったからつらい記憶と向き合えたのだろう。コンプレックスの塊だった彼女が“惡斗”役を“act”する、人間とは気の持ち方ひとつでここまで劇的に変われるものかと、彼女の変身振りには目を見張った。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

この映画には取り上げられてはいないが、惡斗は、「だいぶ嫌いです、全部が演技にしか見えない」と彼女を全否定する金髪ヒールのレスラー・世IV虎からタイトルマッチ中に反則攻撃を受け、顔面陥没骨折の重傷を負う。2人の間にどんな因縁があったのかは触れられていない。ところがその事実が、プロレスという虚構の世界にも、当たり前だがドロドロとした人間的な感情が流れているとうかがわせ、カメラがとらえた惡斗の素顔以上にリアリティを感じさせてくれた。

オススメ度 ★★★

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