こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ワイルド・スタイル

otello2015-02-27

ワイルド・スタイル WILD STYLE

監督 チャーリー・エーハーン
出演 リー・ジョージ・キュノネス/フレッド・ブラズウェイト/サンドラ・ピンク・ファーバラ/パティ・アスター
ナンバー 39
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

まだCGもネットもほとんど普及していなかった時代、燃えたぎる魂はスプレー噴射の文字に昇華するしか表現の手段はない。貧困街で書いても誰も注意を払わない、ならば鉄道車両を彩ればメッセージ自体が移動して多くの人の目に触れる。映画は1980年代初頭のニューヨーク、地下鉄側面の落書きがいつしか主張を持つまでに進化し、アートとして市民権を得たまさに誕生の瞬間を再現。グラフィティだけではない、ラップとDJに合わせてブレイクダンスを披露する“クラブ”の前身のような小さなホールの熱気と興奮のなかで、黒人モダンカルチャーの幕開けを宣言する。エネルギーに満ちた荒削りの映像は、彼らの怒りにも似た情熱を活写する。

夜な夜な操車場に侵入してはグラフィティを印すレイは、ゾロというサインを残していた。ある日、白人女性記者・ヴァージニアから取材を受けることになるが、落書きは犯罪行為ゆえに自分がゾロだとは名乗れない。

白人女性がひとりで足を踏み入れるには命がけの覚悟が必要な黒人居住区域。だが、興味本位に来たのではなくレイを訪ねてきたと知ると、黒人の子供たちは故障したヴァージニアのクルマを押してやったりする。人種間の溝は深くても、人間同士相対すれば危害を加えたりしない。差別と偏見を捨て敬意を払えば、おのずとその先に友情と信頼が生まれてくる。そして、レイの才能に商機を見出すヴァージニアのような白人がいたから、黒人カルチャーは“発掘”され革新的なムーブメントになる。そんな米国の“80年代のリアル”が懐かしい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて興行師のフェイドから野外音楽堂のペイントを任されたレイ。メジャーになるチャンスであるとともに、公共物への無断の落書きといったゲリラ的活動からは足を洗わなければならない。ラップ・音楽・ダンス・グラフィティが一体となったヒップホップこそが至高の黒人パフォーマンスだと、この作品のクライマックスは訴えていた。

オススメ度 ★★*

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