こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イーダ

otello2015-03-02

イーダ IDA

監督 パベウ・パブリコフスキ
出演 アガタ・クレシャ/アガタ・チュシェブホフスカ
ナンバー 50
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

光と影のコントラストが紡ぎだす豊穣なイメージは、ヒロインの世界から曖昧さを削ぎ落とし、闇に葬り去られた真実を抉り出す。ただ、両親がどんな人だったかを知りたい、きちんと悼んでやりたいと願うだけなのに、彼女の訪問はつらい記憶を封印した人々にとっては死の忌まわしさが付きまとう。物語は信仰と清貧に身を捧げる少女が自らのアイデンティティを探す旅を描く。カトリックの修道女になる予定だったのに、体に流れているのは異教徒の血。その事実を受け止めつつも、なぜ家族の中で自分ひとり助かったのかを探るうちに、戦争に翻弄された運命に触れる。いまさら両親に強い愛情を覚えるわけではない、誰かを憎むでもない、それでも過去に向き合うことが未来につながるのだ。

修道誓願を前におばのヴァンタと面会を許された少女は、イーダという本名とユダヤ人の出自を聞かされる。かつて検事だったヴァンタと共に、イーダは両親が住んでいた小さな村を訪ね、やがて戦争中に彼らを匿った男に話を聞く。

ドイツとソ連双方に蹂躙された第二次大戦の惨禍が大人たちの脳裏には生々しく残っている1960年代初頭のポーランド。ある者はナチスに協力し、ある者はコミュニストの手先になった。生き残るために他人を売り、裏切った者に報復し、支配者が変わるたびに同国人同士で粛清を繰り返してきたのだろう。戦後、何とか遺恨や後ろめたさを隠してきた。イーダの来訪はせっかくおさまりかけた感情を彼らに再び呼びさまさせ苦悩の種をまく。彼女の両親の死の真相を関わる者にとって、良心の呵責は耐え難い苦痛だったに違いない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その過程でヴァンタもまた息子を殺されていたのが明らかになる。彼女は検事としてナチス協力者や反体制派を厳しく追及し、多くの人に重い求刑をしたはず。だが、有罪にした容疑者たちにもそうせざるを得なかった事情があったとイーダとの旅で悟る。戦争責任はその時代に生きたすべての大人が負うと、ヴァンタの決断が訴えていた。

オススメ度 ★★★

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