こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ザ・トライブ

otello2015-03-05

ザ・トライブ THE TRIBE

監督 ミロスラブ・スラボシュピツキー
出演 グレゴリー・フェセンコ/ヤナ・ノビコバ
ナンバー 49
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

小学部の卒業式だろうか、大人たちは子供たちの晴れ姿に優しいまなざしを送る。祝福も感謝も視線とゼスチャーで示されるのみ。町の郊外にある聾学校、障害を持った子は手話を覚え世間の役に立とうと懸命に努力している、はず。ところがそんな先入観は年長者のクラスになると一変、暴力と不法行為が跋扈する弱肉強食の世界と化す。物語はこの学校に転校してきた少年が、過酷な環境に染まりつつも次第に頭角を現していく過程を描く。言葉として発せられる音は一切ない、だからこそ殴られ蹴られた時の骨のきしみや子宮をかき回されるうめきが強調され、それらの苦痛がリアルに伝わってくる。もちろんこの学校でもきちんと教育は施されている、しかし、ある意味一番大切なサバイバル能力をも身につけさせてくれるのだ。

新しいクラスの編入した“彼”は、不良グループの洗礼を受けるが、根性を見せて仲間と認められる。グループのリーダーは夜毎クラスの女子2人を連れ出し、トラック運転手相手に売春をさせていた。

年少者への恐喝、通行人への強盗、列車内での置き引き。売春の手引き以外にもカネになることならためらわず手を出すグループの少年たち。だが“彼”は売春少女のひとりと関係を持ったことから、恋という感情に押しつぶされていく。どうにも抑えきれない衝動を手話だけではうまく表現できない。それでもカネさえ払えばセックスをさせてくれるので、いっときの快感と満足は得られる。いつしか彼は少女に貢ぐために更なる悪事に走り出す。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ワンシーン・ワンショットで撮影された流麗な映像は、殺伐としたウクライナの冬の空気と少年たちのギスギスした心をとらえ、一瞬の油断もならない緊張をはらむ。一方で思いが高ぶるほど手話の動きは激しくシャープになり喜怒哀楽が強調される。21世紀のサイレント映画、この斬新な体験はすべての観客のイマジネーションに対する挑戦なのだ。それにしても開放的な女子トイレだったな。。。

オススメ度 ★★★*

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