こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジヌよさらば かむろば村へ

otello2015-03-12

ジヌよさらば かむろば村へ

監督 松尾スズキ
出演 松田龍平/阿部サダヲ/松たか子/二階堂ふみ/片桐はいり/西田敏行
ナンバー 269
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

貨幣経済ときっぱり縁を切り、物々交換と労働の対価として食料などの必需品を手に入れて暮らしていくのは可能か? 東京ライフに疲れ果て限界集落寸前の過疎地にやってきた若者は、そんなモノを売らない、買わない生き方を求め実践する。だが、農業ならば、田舎ならばなんとかなるといった甘い考えは早々に破綻し、村人の好意に頼らざるを得なくなる。物語はカネ恐怖症になった主人公が山間の集落に一軒家を買い住むうちに、村長をはじめ村人との交流を深めるなか、様々なトラブルに巻き込まれていく姿を描く。プライバシーが筒抜けの村、それ以上にどろどろの人間関係、そして誰もが気づいているのに口にしない秘密。自分を捨てて他人のために生きる男の苦悩を、阿部サダヲにしては抑制の効いた演技で表現する。

ケータイも電気も水道もガスも使わない生活をしようと引っ越してきたタケは、夜の寒さにたちまち挫折、村長の与三郎の世話になる。さらに田植えも装備が足らず結局村人の手を借りる始末。一方で600万の預金通帳を捨てたのが知れ渡る。

それなりの覚悟を持っているのかと思いきや、ヒートテック以外はほとんど準備をしていないタケ。カネのない社会というユートピアを夢みているわけでもなく、ただ現金に触るのが怖いだけで志は非常に低い。にもかかわらず“来るものは拒まず”的性格ゆえに、特に己から働きかけなくてもすんなりと村に馴染んでいる。不器用でも、起こる出来事はとりあえずなんでも受け入れようとするタケの哲学は、ある意味人生を有意義に過ごす大切なコツなのかもしれない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて与三郎の忌まわしい過去を握る謎の男が現れたり、町村合併を目論む県会議員に唆された助役が村長選に立候補したりと、タケの日常に暗い影が落ち始める。それでもこの映画の通奏低音にもなっている「必ず何とかなる、思った通りではないけれど」のセリフには、今できることを一生懸命やればきっと幸せにつながると思わせる力が宿っていた。

オススメ度 ★★*

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