こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ダライ・ラマ14世

otello2015-03-19

ダライ・ラマ14世

監督 光石富士朗
出演 ダライ・ラマ14世
ナンバー 60
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

常に笑顔を絶やさずジョークを放ち、大声をあげて笑う。およそ最高位の聖職者とは思えないカジュアルなキャラクターは信者のみならず、中国を除く世界中の人を魅了する。平和を訴える言葉は思いやりに富み、悩める人々には的確なアドバイスと共に自力で解決する努力を促す。大国に運命を翻弄された苦労など微塵も感じさせずに精力的に飛び回り、故郷を追われた同胞の希望であり続ける。映画は来日したダライ・ラマ14世への密着取材を通じて、チベット仏教の本質に迫る。どんなくだらない問いにも真摯に耳を傾ける姿は、自分ではなく相手の利益を考えるのが愛の神髄だと主張する。一方で、中国と自由主義諸国とのパワーバランスを巧みに泳ぎ、時に“政治家”のしたたかな顔を垣間見せる瞬間もある。その、清濁併せのむ人間臭さこそが彼の魅力なのだ。

'07年、訪日時のムービー撮影を担当した薄井はダライ・ラマ14世の飾らぬ人柄に心酔、翌年の来日時には日本の若者からの質問メッセージに応えてもらう。さらにチベット弾圧と抵抗の歴史と顧みる。

対中関係の核心を突くような独占インタビューや、怒った表情をとらえるわけではない。それでも不況にあえいでいた時代の日本の若者の問いをダライ・ラマ14世にぶつけるのには成功する。ダライ・ラマ14世に悪意を抱く中国人も、彼を絶対に傷つけてはいけないのは分かっているのだろう、国家元首クラスのVIPなのに意外なほどの手薄な警備体制の中で、ダライ・ラマ14世は一般人の輪の中に躊躇なく入っていく。非暴力を貫く以上に暴力を恐れない勇気が逆に暴力的な者の心にブレーキをかけるのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

カメラはチベット亡命政府のある北インドの街を訪れる。輪廻転生を信じ現世での徳を積むことが人生の意義と考える人々と、語学を重視して国際社会へ積極的に飛び出す準備をする教育現場。言論・信仰の自由も、今や経済活動と切り離しては成り立たない。仏教の伝統を大切にしながらも現実にも対応するチベット人のしなやかなしたたかさが、ダライ・ラマ14世の生き方とダブって見えた。

オススメ度 ★★★

↓関連サイト↓