こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

神々のたそがれ

otello2015-03-25

神々のたそがれ Hard to Be a God

監督 アレクセイ・ゲルマン
出演 レオニド・ヤルモルニク/アレクサンドル・チュトゥコ/ユーリー・アレクセービチ・ツリーロ/エフゲニー・ゲルチャコフ/ナタリア・マテーワ
ナンバー 69
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

絶望のぬかるみに足を取られ、混沌の霧に視界を奪われる。自由な発想が禁じられた国、そこでは焚書と処刑が日常的に行われている。物語は中世レベルに文明が退行した小さな町に君臨する男の苦悩を描く。ローアングルから移動撮影まで変幻自在の長いショット、フレームいっぱいに登場人物を押し込んで余白を残さない窮屈な構図、レンズの前を不意に横切る無関係なアイテムやカメラに目線を送る名もなきチョイ役、そしてまったく意味不明な脈絡のない会話。それら“映画”に対するあらゆる期待を裏切る映像の連続は、理解しようとする苛立ちの火に油を注ぐばかり。悪夢にうなされている気分になる。

知識人が弾圧され農民や奴隷が反乱を起こしている惑星の調査に訪れた地球人のルマータは、現地で“神の子”と畏敬されている。ある日、思想を取り締まる灰色隊に逮捕されるが、ドン・レバ率いる僧侶の一団に救出される。

一応、ストーリーの骨格はあるが、アレクセイ・ゲルマン監督にエピソードを積み重ねて物語る気は一切なく、不快で不条理で汚泥と汚わいと腐臭と死に満ちたイメージを羅列するのみ。もちろん、“支配者が変わっても抑圧される下々の暮らしは変わらない”といったメッセージは含まれるものの、メタファーでも皮肉でもなさそう。ただ、ルマータが発する「神でいるのはつらい」という言葉が人間社会を統べる指導者の困難を象徴する。同時にそれは、撮影現場で“神”として振る舞うゲルマン監督が、この前代未聞の映画を演出する正直な心情を吐露しているようでもあった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

健全な肉体を持つ者はよりも、デブや小人、歯抜けやハゲ、さらに亀背など異形の者も多く、彼らが身につけている衣装や武具鎧、ぶら下がっているソーセージから絞首刑死体、建物の内部外部までディテールに至る世界観の作り込みは驚嘆に値する。3時間近い上映時間、確かに過去のどんな作品にも似ていない圧倒的な映画体験だった。しかし、それが心地よい陶酔とは限らない。。。

オススメ度 ★★

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