こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エレファント・ソング

otello2015-04-02

エレファント・ソング ELEPHANT SONG

監督 シャルル・ビナメ
出演 グザビエ・ドラン/ブルース・グリーンウッド/キャサリン・キーナー/キャリー=アン・モス/コルム・フィオール
ナンバー 70
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

豊かな知性の奥にわずかな悪意を潜ませた瞳、何かを企んでいるようだがそう見えるように振る舞っているだけかもしれない。自分の知識は滔々と披露するが、他人の言葉には耳を貸さず質問には適当に答える。一方で無視されるのに耐えきれず相手の興味を引く作り話をする。物語はそんな、知能レベルは高いが円滑なコミュニケーション能力に欠ける青年と、彼から情報を引き出そうとする精神科医の駆け引きを再現する。舞台は精神病院、要介護の患者がほとんどの中、ひとり個室で思考を巡らせ、両親に構ってもらえなかった記憶に苛まれながら生きてきた彼にとって、孤独は最大の苦痛。それゆえに編み出した、関心を持ってもらうための魅力的な虚構の話し方が哀しく切ない。

ローレンス医師が失踪、院長のグリーンはその事情を患者のマイケルから聞きだそうとするが、はぐらかされてばかり。元妻でもある看護婦長のピーターソンを侮辱されて、思わず手を上げてしまう。

ゾウの薀蓄をひけらかし、ゾウのぬいぐるみを大切にするマイケル。巧みな話術にグリーンはのせられて、嘘かホントかわからない話を聞かされた挙句、結局何も得られない。平静を保とうとしてもつい苛立ち、医師と患者という立場は反転し、完全に主導権はマイケルに移る。そしてマイケルは「母を殺した」とか「ローレンスから性的虐待を受けた」など、真偽の確かめようがないことを口走る。さらにグリーンの家族との軋轢やピーターソンとの過去などがマイケルに知れ、いつしかグリーンは心理的に操られていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そのあたりの、マイケルが垣間見せる心の深淵とそこを覗き込もうとするグリーンの姿をとらえた寒色系の映像は、老若が逆転した“レクターとクラリス”の関係を屈折させた濃厚な死臭を漂わせている。自らを罰するかのごとき苦悶に満ちた緩慢な死は、愛されて初めて己の罪深さに気づいたからなのだろうか。。。

オススメ度 ★★★

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