きみはいい子
監督 呉美保
出演 高良健吾/尾野真千子/池脇千鶴/高橋和也/喜多道枝
ナンバー 96
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
肩でも背中でもいい。心が折れそうになったとき、傷ついたとき、抱きしめてもらうだけで重荷から解放されていく。どんな言葉よりも温かい安心と信頼、それを交感し共有するのが“愛”。映画は小さな町の小学校と周辺を舞台に、そこでの出来事をスケッチする。教室内のいじめとモンスターペアレンツに悩む新人教師、ママ友づきあいはできてもわが子への接し方を知らない母、認知症ぎみの独居老人と礼儀正しい自閉症児。人との適切な距離感の取り方が分からない老若男女の苦悩がリアルに再現される。やり場のない苛立ちと逃げ場のない孤独、誰もが問題を抱え戦っている、正解がないのもわかっている。それでも “あなたはひとりじゃない”と相手に伝えることで救われるのだ。
4年生の担任・岡野は放課後の校庭で時間をつぶしている神田に声をかける。幼い娘・あやねについ手を上げてしまう雅美は自己嫌悪している。通学路脇に住むあきこは毎日挨拶をしてくれる弘也に好感を抱く。
もはやインネンとしか言えない文句をつけて絡んでくる児童にも、決して怒らない岡野。児童に一人の人間として相対する姿はいかにも“教育の理想を目指す新任教師”らしいが、少しでも弱みを見せるとつけあがるガキという現実の前に疲れ果てていく。公園では、雅美はママ友の陽子の鷹揚な子育てに、自分に足りない物はなにか気づくが、あやねに実行する勇気を持てないでいる。いつも雅美の顔色をうかがい、ミスをするとすぐに両手で頭を庇う姿勢を取るあやねの、身にしみついた恐怖への反射が哀しい。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
岡野は他者への思いやりを学ばせるためにクラスにある宿題を出す。無理とわかっていて神田はやってくると岡野に言う。その瞬間の神田の、岡野を失望させたくない気持ちが自身を追い込んでいく。一方、陽子は雅美に自らの体験を語り、雅美のトラウマを癒してやる。愛された記憶が確かならば人は他人に優しくなれる、ほんのわずかでもいい、その連鎖が生きづらさに患っている人々に居場所を与え希望につながるとこの作品は教えてくれる。
オススメ度 ★★★★*