こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あの日の声を探して

otello2015-05-02

あの日の声を探して THE SEARCH

監督 ミシェル・アザナヴィシウス
出演 ベレニス・ベジョ/アネット・ベニング/マキシム・エメリヤノフ/アブドゥル・カリム・ママツイエフ/ズクラ・ドゥイシュビリ
ナンバー 102
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

目の前で家族を虐殺され、赤ちゃんと脱出した少年。強制的な軍務の中で常識が麻痺していく若者。誰ひとり救えない現実を目の当たりにして無力感に打ちひしがれる職員。20世紀末のチェチェン、映画は派兵されたロシア軍新兵と難民となったチェチェン人少年の目を通して、戦争の真実をあぶりだしていく。極限状態で良心をすり減らしていくロシア兵に対し、孤独と不安に耐えながらも命の重さを忘れない少年。もちろんチェチェン人が弾圧される側であるのは変わらない。しかし、ロシア人が“兵器”に作り替えられていく過程は、結局、戦争に勝者はいないと教えてくれる。そして、安全な場所から手を差し伸べるだけでは決して当事者の苦しみは解決しないという、人道援助の限界を提示する。

ロシア軍制圧地域から逃げ出したハジは弟を民家に預けて町にたどり着き、難民の聞き取り調査をするEU職員のキャロルに保護される。過酷な体験で言葉を失ったハジにキャロルは理解を示しつつも苛立ちを隠せない。

ハジは弟を捨てた自分を責めているかのよう。まだ9歳の子供なのに、平和な国の人間の一生分以上の哀しみを背負ってしまった。口を閉ざした上に感情まで消してしまったハジと暮らすうちに、キャロルは己に何ができるのかを問う。だが、国連でのキャロルのスピーチに耳を傾ける傍聴者は少ない。その緩んだ空気が、ハジのような悲劇は世界中でありふれた出来事のひとつにすぎないと物語っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、生存していたハジの姉・ライッサが赤十字を訪ね、難民の子を世話する仕事に就く。支援者がすべきは、恐怖と絶望、怒りと憎悪の連鎖を断ち切って、他人を思いやる気持ちを取り戻させること。最後にキャロルが見た光景が、生きることこそが希望につながると訴えていた。ただ、ドキュメンタリータッチへのこだわりが映画のテンポを殺いでいたところに不満が残る

オススメ度 ★★*

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