こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゆずり葉の頃

otello2015-05-28

ゆずり葉の頃

監督 中みね子
出演 八千草薫/風間トオル/岸部一徳/仲代達矢/竹下景子/嶋田久作
ナンバー 121
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

少女のころ、少し語り合っただけの少年。その面影は心に深く刻まれている。戦争、シングルマザー、そして一人息子の成長……様々な出来事を経たけれど、いつも頭の隅に少年がいた。老境を迎えたヒロインは己のキャリアに踏ん切りをつけるためにもう一度彼に会いに行く。そこで、彼女は人々の親切に触れ、遠い思い出を反芻する。夏の喧騒が去りしっとりと落ち着いた軽井沢、物語は、画家として名を成したあの少年に思いを馳せながら散策する老婆を追う。いちばん好きな絵が見つからない、でも出会った場所は覚えていてくれる。わずかな不安と高まる期待、楚楚とした和服の下に隠した乙女心がふとした瞬間の笑顔に滲み出す。そんな、“かわいらしいおばあちゃん”を八千草薫が奥ゆかしく演じる。何より彼女が口にする日本語の美しさが、澄み切った水や空気に馴染んでいた。

和服の仕立師・市子は引退を決意、誰にも告げずに旅に出る。向かったのは高名な画家・謙一郎の個展が開かれているギャラリー。市子は一点の絵を探して毎日画廊に通うが、その絵は個人所有で公開されないと教えられる。

カフェの店主、出入りの業者、定食屋の女将、画廊の係員、ホテルのシェフetc. 市子を迎える軽井沢の人は皆、彼女に丁寧に接する。市子もすんなりと彼らに溶け込み、一人旅なのに寂しさを感じずくつろいでいる。人と人の距離は近いけれど必要以上には踏み込まない、大人の人間関係を知り尽くした街。遠来の客をもてなす術に長けた避暑地は、まるでユートピアのようなたたずまいだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて市子は謙一郎の自宅に招待される。視力を失った謙一郎は市子が竜神池の少女とは気づかない。だが、自分がモデルだと信じていたあの絵を見て、彼の胸中を知る。言葉にしなくても気持ちは通じたはず、謙一郎という過去に区切りをつけ息子と2人恋人のように語り合う姿が、市子の満ち足りた人生と未来を象徴していた。

オススメ度 ★★★

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