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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フリーダ・カーロの遺品石内都、織るように

otello2015-05-30

フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように

監督 小谷忠典
出演 石内都
ナンバー 122
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

左右がつながった太い眉、きりりと引き締まったまなざし、口元にはうっすらひげまで生えている。その厳しい表情は、幼い時の病気と若いころのケガで身体の自由を奪われながらも強烈な愛に殉じた女の、世界に対する怒りと命への情熱、そして運命に挑む決意を示す。カメラはひとりの日本人写真家がメキシコの伝説的アーティスト、フリーダ・カーロの遺品を写真に記録するという仕事を通じて、フリーダの人生に触れていく過程を追う。それは同時に、写真家自身がアーティストとしての生き方を問い直す旅でもある。フリーダが身につけた衣類や服用した鎮痛剤に向けてシャッターを切る姿は、降りかかった不幸を創作のエネルギーに昇華したフリーダへの敬意と、女性だからこその共感に満ちていた。

フリーダ・カーロ博物館から彼女の遺品撮影の依頼を受けた石内都はメキシコに飛ぶ。当初、フリーダにあまり関心がなかったと言っていた石内も、彼女の半生を知り思いがこもった遺品に接するうちに理解を深めていく。

石内の遺品への姿勢はあくまで“もの”への冷徹な視線。ファッション誌のようにストーリーを持たせるのではなく、カタログ風の美しい無機質さにこだわる。それでも、左右かかとの高さが違う真っ赤なブーツの写真には、フリーダの壮絶な戦いを饒舌に物語る力がみなぎっている。出来上がったプリントは当然静止したまま、だが石内の写真には切り取られた時間が封じ込められていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映画はフリーダのルーツでもあるメキシコ原住民たちが生業とする刺繍アートにも言及、伝統を重んじる女たちの矜持を語らせる。固有の技術ではないが、今ではメキシコに欠かせない文化となっている。恐ろしく手間暇がかかる手作業にもかかわらず祖母から母へ、母から娘へと受け継がれていく。経済的豊かさより血縁を大切にする、家族に恵まれなかったフリーダとは対照的だった。

オススメ度 ★★★

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