こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

予告犯

otello2015-06-11

予告犯

監督 中村義洋
出演 生田斗真/鈴木亮平/戸田恵梨香/濱田岳/荒川良々/宅間孝行/福山康平/田中圭/小日向文世
ナンバー 134
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

合法な会社ではやる気も能力も一切評価されず、派遣社員というだけで下僕のような扱いを受ける。不法な業者には脅され、山奥の荒れ地で奴隷同様の暮らしを強いられる。一度負け組に落ちてしまったら、その蟻地獄から二度と抜け出せない、物語は底辺に押し込められた怒りを爆発させ、世の中に復讐する若者たちを描く。家族も友人も夢も誇りもすべてどこかに消えた、もちろんカネもない。そんな失うものが何もない人間がほんの小さな動機で大胆な犯行に走る。そうするしか生きた証を残せない彼らの人生が哀しい。主人公の幻影がキャリア警察官に投げかける“がんばれただけ幸せ”の言葉に、再起のチャンスを与えられずに沈んでいく人々の無念が凝縮されていた。

他人の尊厳を奪ったり道義的責任を全うしない者たちに鉄槌を下すゲイツ率いる4人組が、ネットの自由を規制しようとする議員を標的にすると予告する。警察は公安を動員して捜査・警備にあたるが、ゲイツらは警察の裏をかく。

ネットカフェのパソコンを乗っ取り、“予告制裁”を続けるゲイツたち。ただ、動画サイト上のパフォーマンスと捜査攪乱が目的とはいえ、最初の4件は明らかにやりすぎの観があり、悪党をやっつける爽快感より嫌悪感を覚える。それはゲイツらが正義の仕置き人を気取っているのではなく、愉快犯の一面を見せることで自分たちはアウトローだと強調したかったからだろう。正論や大義を振りかざすのではない、フィリピン人少年の願いを叶えるために命を張る彼らの姿に、ニューシネマのアンチヒーローが重なって見えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

捜査班の若き班長・吉野は “努力は報われる”と信じ、うっぷん晴らしに世間を騒がせるゲイツたちを甘ったれと一刀両断する。だが、ゲイツを追ううちに彼とはコインの表裏だと気づく。犯罪をなくすために警察官を志したのに、犯罪の原因となっている搾取システムを守ろうとしている、彼女を襲う圧倒的な敗北感が格差社会の矛盾を象徴していた。

オススメ度 ★★★

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