こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

夏をゆく人々

otello2015-06-25

夏をゆく人々 Le meraviglie

監督 アリーチェ・ロルバケル
出演 マリア・アレクサンドラ・ルング/サム・ルーウィック/アルバ・ロルバケル/ザビーネ・ティモテオ/モニカ・ベルッチ
ナンバー 147
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

この一家は自給自足の生活を求めてこの土地にやってきたのか。古いトラックや映りの悪いカラーテレビはあるが、トイレにドアのないような石造りの家に住んでいる。強権的な父、気の強い母、4人姉妹、居候の女のファミリー構成の中、長女は生きる意味を考える間もなく父の命令通り肉体労働に従事している。そこには未来への明るい展望はなく、豊穣の歓びもない。だが、他者からの干渉を拒む完結したコミュニティにも見える。物語はそんな家族に一人の少年が加わったのがきっかけで起きる、“世界の終わり”を描く。床にこぼれた大量の蜂蜜は過去には戻れないことを暗示し、庭につながれたラクダは叶った願いは色あせるというメタファー。人間も価値観も永遠に同じものなどない、ならば変化を受け入れる覚悟をすべきとこの作品は訴える。

イタリア中西部、養蜂業を営む父の仕事を手伝っているジェルソミーナは、ご当地産業紹介番組のロケに遭遇し出演希望するが、父は聞く耳を持たない。一方、父はドイツ人少年の更生プログラムを引き受ける。

TVクルー、蜂の大量死、物言わぬ少年。平和だったはずの暮らしにさざ波が立つ。同時に多額の費用がかかる製蜜工場の改装を迫られるが、とても余裕はない。さらに次女の大けがで大きなロスを出してしまう。そして彼らは、TVショーの賞金に起死回生を賭ける。カメラは彼らの日常を丹念にすくい取りながらもジェルソミーナが覚える違和感をとらえ、運命の綻びを予感させていく。その間、説明的な映像はなくセリフも必要最小限。それでも行間からにじみでる感情が登場人物、特に父のキャラクターに深い想像の余地を与える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

父はドイツで社会運動をしていたのだろう、ところが独善的性格ゆえ孤立し、ひとり理想を追ってイタリアに流れてきた。苦労して築いた自分の王国をジェルソミーナに継がそうとしたが、いまやその夢も破れた。本人は“愛”と信じているジェルソミーナへの強烈な思いが空回りする姿が、時代遅れの“父権”を象徴していた。

オススメ度 ★★★

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