こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

奪還者

otello2015-06-29

奪還者 THE ROVER

監督 デヴィッド・ミショッド
出演 ガイ・ピアース/ロバート・パティンソン/スクート・マクネイリー/デヴィッド・フィールド/スーザン・プライアー
ナンバー 136
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

経済は破綻しモラルも崩壊した近未来、盗まれた愛車を奪還するためにひたすら悪党どもを追い続ける主人公。先に引き金を引いたものが生き残る弱肉強食の掟が支配する中、どこまでも荒涼とした大地と渇ききった彼の心が見る者の感情移入を一切拒む。狂った時代に彼だけは正常なのかと思いきや、この男もまたどこか壊れているのだ。物語は無法地帯と化したオーストラリア、家族も夢も失くした男が大切にしているモノを取り返す旅を描く。道連れは仲間に見捨てられた若者、信じられるのは自分のみという状況で2人の間に奇妙な友情が芽生えていく過程は、絶望のなかでも誰かと力を合わせれば少しは希望が生まれると訴える。

バーで休憩中、逃走中の3人組にクルマを乗り逃げされたエリックは、彼らのピックアップトラックで追いつくが、殴られ昏倒する。銃を手に入れて追跡を再開すると、3人組のリーダーの弟・レイが傷ついた姿で助けを求めてくる。

値段を吹っかけてくる銃の売人をいきなり射殺するエリック。売人の手下が仕返しに来ても容赦なく狙撃する。一方でレイの治療で立ち寄った女医の家ではおとなしくしているくらいの分別はある。女医は飼い主が捨てていった十数頭の犬を狭い檻に閉じ込められているが、それは犬を食う人間たちから犬を守るため。犬は飼い主を絶対に裏切らない、犬の味方である女医は信用できると思ったのか、彼女に対しては警戒心を解くエリック。暴力が蔓延してもまだ完全には理性が失われたわけではない、そんな女医の勇気がこの映画にわずかな救いをもたらしている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

道中、レイはエリックが軍人に捕えられると単身救出に現れ、医者に連れて行ってくれた恩義を返すとともに、兄への復讐を誓う。やや頭が弱そうなレイもまた、根っこには善意や良心が残っている。そしてレイと交流することでエリックにも感情が戻る。人の命が犬の死体よりも軽くなった世界、それでも生きていかなければならない苦悩がリアルに再現されていた。

オススメ度 ★★*

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