こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

日本のいちばん長い日

otello2015-07-06

日本のいちばん長い日

監督 原田眞人
出演 役所広司/本木雅弘/松坂桃李/堤真一/山崎努
ナンバー 155
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

海軍は壊滅、広島と長崎に原爆が落とされ、ソ連が参戦する。東京や主要都市は焼け野原にされ、今や国と国民を存続させるには無条件降伏を受け入れるしかない。だが“国体の護持”だけは譲れない。物語は、大東亜戦争最末期、政府最高首脳と天皇がいかにして日本を守ろうとしたかを描く。この期に及んでも本土決戦を訴える陸軍幹部と彼らの血気を抑えつつ現実路線を取る陸軍大臣、戦争に早く片を付けようと腐心する総理大臣と国民の安寧を願う天皇。「敗戦」ではなくあくまで「終戦」という着地点を模索した当時の指導者たちの苦悩と逡巡、葛藤と決断をリアルに再現する。

1945年4月、鈴木内閣が発足、陸軍大臣に阿南を指名する。戦局は悪化の一途をたどり、内閣はポツダム宣言受諾を天皇に上申する。同時に参謀本部の畑中少佐らの一派はクーデター動きを見せるが、阿南は偽電話で彼らの暴走を防ぐ。

静かに成り行きを見守る天皇は、御前会議での話題にも表情を変えず、胸中は控えめに「〜希望する」と口にするのみ。終戦の詔書も用意された原稿をマイクの前で読み上げるばかり。玉音放送の淡々とした口調は、現人神と崇められながらも何の決定権もない無力感を表現した結果であると、天皇に扮した本木雅弘の冷静な演技が示す。一方で阿南・畑中・鈴木、および彼らにまつわる多岐にわたる登場人物の感情と行動は短いショットの連続で畳み掛ける。それら緩急自在の映像と編集の妙が上映時間の長さをまったく感じさせなかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

戦争を終結させた安堵と畑中らを止められなかった後悔、残してきた家族。玉音放送を聞かぬまま、阿南は複雑な思いを抱えて切腹する。介錯を拒み、自らの刃の痛みに耐えながら果てる阿南の脳裏には、戦場で散った息子と数十万の部下への呵責があったはず。戦後70年、彼の背中は「安保法案」を推進する与党に、もし自国の若者を死なせたらその十字架を背負う覚悟があるのかと問いかける。

オススメ度 ★★★★

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