こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フレンチアルプスで起きたこと

otello2015-07-10

フレンチアルプスで起きたこと Turist

監督 リューベン・オストルンド
出演 ヨハネス・バー・クンケ/リサ・ロブン・コングスリ/クリストファー・ヒビュー/クララ・ベッテルグレン/ビンセント・ベッテルグレン
ナンバー 161
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

予想外の出来事に危機回避行動をとった。置き去りにされた妻と子供たちは唖然とし、彼に対する信頼は足元から崩れてしまった。楽しいバカンスは一転して気まずいものとなり、家族は崩壊していく。物語はスキーリゾートを訪れた一家が、父であり夫である男の本性を垣間見てしまったことから起きる、静かな、強烈な波紋を描く。妻の一言、娘の視線、息子の態度、それらすべてに非難を感じとりじわじわと追い詰められていく主人公。良妻賢母に疲れた妻。そして両親の間に流れる不穏な空気を敏感に察知する子供たち。逃げ場のない状況と替えの利かない人間関係の中で、彼ら自身が気づかなかった自分の本音を発見していく過程はスリルと緊迫感に満ち、息が詰まるほど重苦しい。

トマス一家が食事中のオープンテラスに人工雪崩が迫ってくる。あわてたトマスは妻のエバと子供たちをテーブルに残してひとり避難する。けが人はいなかったが、深く失望したエバはトマスにちいさな復讐を始める。

ホテルで知り合ったカップルとのディナーの席でエバは話を蒸し返すが、事実を否定するトマスは認識の違いと弁解する。その後もエバは、合流したマッツと彼の恋人にも顛末を聞かせ、ことの是非を問う。エバの言葉は正鵠を射ているが辛辣で、トマスだけでなくマッツの痛いところを突く。これらのエピソードは、トマスとエバには複雑な事情があり、実は無理して仲良し家族を演じている雰囲気を漂わせ、ここに来る前にもなにかあったのではと思わせる。少なくともエバは何かをひとりで抱え込んでいた、息子は両親の溝に気づいていた、はず。うんざりするほど長いショットの積み重ねが、彼らの心に堆積した不満の澱を代弁する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

トマスもまた、日ごろから別の人生を夢想していただろう。それには妻子はいない方がいい。雪崩はふと魔が差したその瞬間にやってきた。一瞬でも家族の不在を願ったのを自覚したからこそ、逃げなかったと言い張り、のちに激しい自責の念に襲われるのだ。。。

オススメ度 ★★★

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