こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボヴァリー夫人とパン屋

otello2015-07-13

ボヴァリー夫人とパン屋 GEMMA BOVERY

監督 アンヌ・フォンテーヌ
出演 ファブリス・ルキーニ/ジェマ・アータートン/ジェイソン・フレミング/ニールス・シュナイダー
ナンバー 163
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

パリの喧騒に疲れ田舎に逃れてきたのに、待っていたのは判で押した退屈な日常。たったひとつの愉しみは古典を紐解き、想像の翼を羽ばたかせること。そんな男の人生に、慣れ親しんだ小説のヒロインそっくりの女が闖入する。物語はパン屋を営む主人公が隣家に引っ越してきた若くてセクシーな英国人人妻に夢中になり、彼女に付きまとう姿を描く。アニメやゲームのキャラに萌えるオタクのように胸をときめかせる彼の繊細な感情がリアルに再現される。バーチャルな存在が突然生身の肉体を持った驚きと戸惑い。手が届く距離にいるのに口説き落とす勇気がない。そして若い男に横取りされても指をくわえて見ているだけ。親子ほど年齢の違う女に恋をするオッサンの切ない気持ちが痛々しくも共感を呼ぶ。

フローベールの「ボヴァリー夫人」を愛読するマルタンは、隣人のジェマにボヴァリー夫人との共通点をいくつも見つけ、寝ても覚めても彼女が頭から離れなくなる。ある日ジェマが蜂に刺され、毒を吸いだすために彼女の背中に触れる。

もはやジェマは神格化され、マルタンは彼女との会話や肌の感触を思い出しては幸せな気分に浸っている。ハンサムなエルヴェがジェマに近づいても成り行きを傍観し、自分の欲情に油を注ぐ行動を繰り返す。このあたり、理想のタイプのAV女優が本番をしているエロ動画を、男優に己を投影しながら見ている男たちの心理と変わらない。現実世界での恋愛を極力避けつつも、欲望を捨てきれない。対人関係に器用ではないマルタンが身に付けた自虐的な処世術が愛おしくも滑稽だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、耐えきれなくなったマルタンは小細工をしてジェマとエルヴェを別れさせる。だが、その後ジェマの元恋人が現れ、ジェマを後ろから抱いているところを夫に目撃されてしまう。ジェマの日記を密かに読むマルタンは、誰よりも彼女の思いを理解している。ジェマもマルタンの秘密を抱えたまま死んだ。マルタンにとってそれはジェマの精神と交わる神聖な行為、さらなる妄想に心を弾ませていたに違いない。。。。

オススメ度 ★★★

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