こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バケモノの子

otello2015-07-15

バケモノの子

監督 細田守
出演 役所広司/宮崎あおい/染谷将太/広瀬すず/ 山路和弘
ナンバー 164
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ビルの間の狭い隙間を通り抜けると獣面人身の生き物が闊歩する異界。大人を拒絶し社会に順応できない少年は、力は強いが精神的に未熟なはぐれ者に声をかけられる。彼らは反発しながらもいつしか分かちがたいパートナーとなっていく。映画は、バケモノが暮らす世界で、主人公が粗野で短気な熊面の男の家に住み込み、修行を積むうちに血よりも濃い絆で結ばれていく過程を描く。顔を合わせれば口喧嘩、だがそれは強固な信頼の証でもある。傷つけあっても支えている、思ったことはポンポン口にする2人の歯切れのいい掛け合いが独特のテンポで楽しませてくれる。そして明らかになる途轍もない闇の力。誰もひとりでは生きていけない、助け合いを学んで心は成長していくのだ。

バケモノ界で次期宗師の候補となった熊徹は、周囲の反対を押し切って人間の子・蓮を弟子に取り、キュータと名付ける。行き場のないキュータも熊徹と寝食を共にするうちに胸襟を開いていく。

父をよく知らず母とも死別したキュータは、世間に「大嫌いだ」と叫んでバケモノ界に逃げてきた。おそらく独力で育った熊徹も“対人関係”の距離感がわからずバケモノ界では異端児。気持ちをうまく言葉にできない不器用な者同士が手探りで疑似父子になっていくあたり、愛された記憶があまりなくても相手に思いを伝える手段はあると訴える。格闘術をマスターするために真似をしていたキュータがやがて熊徹そっくりに振る舞う姿は、「意味は自分で考えろ」という通り、体で覚える大切さを教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

17歳になったキュータは蓮として人間界に戻り、楓と名乗る少女と出会って大学進学を目標にする。一方で実の父とも再会。キュータなのか蓮なのか、彼はアイデンティティに悩む。その中で、怒りや憎しみ、欲望や嫉妬といった負の感情があるからこそ人間であると気づく。恐れ迷いつつも己の同類を“闇”から救い出そうとする蓮の勇気は、きれいごとばかりではない人間界でも命を賭けて守る価値はあり、そこに希望も見いだせると物語っていた。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓