こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

海のふた

otello2015-07-21

海のふた

監督 豊島圭介
出演 菊池亜希子/三根梓/小林ユウキチ/天衣織女/鈴木慶一
ナンバー 170
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

都会での生活に疲れ果てた女が帰郷する。だが故郷は、かつての賑わいは影を潜め、すっかり寂れていた。迎えてくれた元恋人も精彩を欠いている。物語はそんな街でかき氷屋を開いたヒロインが、ひと夏の出会いと別れを通じて人生を見つめ直していく姿を描く。砂浜、神社、古いビル……。活気がないのに気づきながらも美しい思い出だけに浸ろうとする彼女の態度は、街の変遷を目の当たりにしてきた元恋人との間に軋轢を生む。どうすることもできなかったのか、もうどうにもならないのか。人が去りカネが回らなくなった田舎の現実に、スローライフスローフード・ナチュラル志向といった都会人の幻想はことごとく打ち砕かれる。海水浴客がいないビーチが住人の閉塞感を象徴していた。

実家に戻ったまりは、海岸沿いにかき氷店を開く。顔と心に傷を負った娘・はじめを雇い、天然素材にこだわったシロップのかき氷を出すが、なかなか客は来ない。ある日、仕事をさぼっている元恋人のオサムを見つける。

もともと人通りの少ない立地、たまに来る客はかき氷に冷涼感を求めても味への要求は低い。あえて売り上げの数字を見ないのか、それとも親からの援助を期待しているのか、まりには経営的観点が抜け落ちている。むしろ、人間不信に陥ったはじめの気持ちをほぐす方に重心を置くかのよう。はじめの視点で見れば、海も山も近い空気のきれいなところで人情に触れて心身をリフレッシュするという展開ではあるが、かき氷屋の将来に明るい展望は見えない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして知ってしまったオサム一家の真実。限界にきているのに、「がんばれ、逃げるなと」と、鞭打つ言葉を投げかけるまり。東京から逃げてきた自身をオサムにだぶらせたのだろう、それでも、帰る場所があったまりは幸せだったのだ。このあたりの地方衰退をもっと切実に掘り下げていれば、数多ある“自分らしく生きる”癒しの映画とは一線を画せたのだが。。。

オススメ度 ★★

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