こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター

otello2015-08-03

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター THE SALT OF THE EARTH

監督 ヴィム・ヴェンダース/ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
出演 セバスチャン・サルガド
ナンバー 182
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

一瞬を切り取るのではない。ニューギニアやアマゾンの未開部族、メキシコの荒れ地の農民、故郷を追われたアフリカ人、隣人同士で殺し合った旧ユーゴ市民etc. 人々が刻んできた肉体の歴史、魂の記憶が凝縮された瞬間を辛抱強く待ち、シャッターを切る。人間だけではない、動物たちでさえも生存競争の軌跡を浮かび上がらせている。光と影で世界を描くフォトグラファー、映画はヴィム・ヴェンダース監督に強烈なインパクトを与えた男の半生に迫る。苦悩の中に喜びを見出し、絶望の中で希望を捨てず、死の中で生を願う。どちらかというと苦痛に満ちた現実にレンズを向ける機会の方が多い、それでも圧倒的な命への欲求が彼の作品からほとばしる。被写体に寄り添って見極めた本質と、コントラスト鮮やかなモノクロのプリントに再現された真実は、見る者の心を鷲掴みにする。

盲目の女性のポートレートに感銘を受けたヴェンダースは、撮影者・サルガドの密着取材を許される。ブラジル生まれのサルガドは渡仏後カメラマンに転進、南米からアジア、アフリカ、北極圏を股にかけて撮り続けていた。

露天掘り金鉱山に設置された梯子を上る数千の労働者をとらえた一葉が圧巻だ。地底から這い上がる泥だらけの男たち、よく見るとそのひとりひとりにフォーカスが合い、苦役にうめきつつも一獲千金の夢はあきらめない彼らの胸中の叫びが聞こえてくるかのよう。また、エチオピアやルワンダの難民を写したシリーズは、黒い肌と対照的な白目部分の力強さが生き残る可能性を示唆していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

人類の悲劇から環境問題に興味が移ったサルガドは、野生動物を対象に選ぶ。そこでも、想像を超えた構図とエッチングのごとき濃淡は一見で忘れられない効果を与える。写真の良し悪しがわからない者でも胸に深く突き刺さる印象を残すに違いない。まさしく“LIFE”、こういう表現の方法があるのかと、驚きの連続だった。

オススメ度 ★★★*

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